蛇息子
★1.人間の女が小蛇を産み、育てる。蛇は成長後、昇天しようとして失敗する。
『常陸国風土記』那賀の郡茨城の里哺時臥(くれふし)山 ヌカビコの妹ヌカビメが、名も知らぬ男と夫婦になって小蛇を産む(*→〔夜〕1)。小蛇は急速に成長する(*→〔成長〕1c)。ヌカビメは蛇にむかって「汝は神の子ゆえ、父の所へ行け」と言う。蛇は怒り、伯父にあたるヌカビコを雷撃して殺し、天に昇ろうとする。しかしヌカビメが瓮(ひらか)を投げつけたため、蛇は昇天できず、哺時臥(くれふし)山の峰に留まった。
『耳袋』巻之2「蛇を養ひし人の事」 清左衛門夫婦が小蛇を箱に入れ、縁の下で育てること11年に及んだ。蛇は大きく成長し、縁遠い娘がこの蛇に祈ると願いが叶う、などの事もあった。天明2年(1782)3月の大嵐の日、蛇は風雨に乗じて昇天した。
『蛇の息子』(昔話) 富山の町に住む爺婆が蛇の子を育て、「シドー」と名づけてかわいがる。シドーはたくさんの米を食って大蛇になったので、爺婆は「もうお前を養えない」と言い聞かせる。シドーは出て行ったが、やがて神通川に姿を現し、町中大騒ぎになる。殿様が「蛇を退治した者には、大金を与える」と、お布令(ふれ)をだす。爺婆はシドーに「こんな所で人を恐がらせず、どこかへ姿を隠してくれ」と頼む。シドーは海へ去り、殿様は爺婆が一生安楽に暮らせるだけの扶持(ふち)を与えた(山梨県西八代郡九一色村)。
『蛇息子』(昔話) 爺が山へ木こりに行くと、小さい蛇が寄って来たので、籠に入れて持ち帰り、婆に隠して縁の下で育てる。しかし蛇はどんどん大きくなって隠せなくなり、爺は蛇を海へ放す。その時、爺は「お前を何年も大事に飼って育てたのに、何の恩送り(=恩返し)もしてくれん。どこへなりと行け」と言う。翌朝、蛇は「恩送りだ」といって、大きな荒布(あらめ)の杓子をくわえて海辺に現れ、爺にその杓子を与える(兵庫県美方郡温泉町千原)→〔無尽蔵〕1c。
★3.独身者が小蛇を育てる。蛇は成長後、馬や人を呑み、町を水没させる。
『捜神記』巻20-15(通巻463話) 貧乏な老婆が、頭に角のある小蛇に食物を与えていた。蛇は1丈あまりに成長して知事の馬を呑み、知事は怒って老婆を殺した。蛇は人にのりうつって「仇を討つ」と言う。40日後の夜、町は陥没して湖となった。
『太平広記』巻458所収『広異記』 書生が小蛇を育て、毎日おぶって歩いたので「担生」と名づける。やがて大きくなったため沢に放した。40年あまりたつと蛇は舟ほどの大きさになり、沢に行く人を呑んだ。書生は県令に捕らわれ獄につながれる。しかし夜のうちに、獄だけ残して県全体が沈んで湖になった。
『白蛇伝』 少年・許仙(シュウセン)が白い小蛇をかわいがっていたが、大人たちに叱られて、泣く泣く小蛇を棄てた。年月が流れ、青年となった許仙は、ある日、美女・白娘(パイニャン)と出会って恋に落ちる。白娘は、かつての小蛇の化身であった→〔蛇女房〕2。
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