Xバー理論 文の構造

Xバー理論

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/28 07:22 UTC 版)

文の構造

Sの構造

文 (S(entence))の構造は、PSRでは下記のように表記される。

  • S → NP (Aux) VP

しかしこれは、主要部がない外心構造であるため主要部の原理に違反する点、Aux(iliary) (助動詞 (言語学)) が生起する際Sの節点が三股枝分かれになる点で二股枝分かれの原理の違反にもなり、Xバー理論にとって大きな問題となる。この問題を解消するため、Chomsky (1981)[14]では、文は機能範疇Infl(ection) (屈折詞) を主要部とするInflPであると提案され、のちのChomsky (1986a)[10]では、句範疇が「XP」という形の2字で表される慣例に従い、文は機能範疇Iを主要部とするIPであると提案された[注 6]I は、willcanなどの助動詞ならびに、三単現の-sや過去時制接辞-edなどであり、文 (ないし) は必ず時制要素を含むため、「句には必ず主要部がある」ということを規定する主要部の原理と完全に合致している。

この考えに基づき、John studies linguistics at the universityという文の構造を樹形図で示すと、図10のようになる[注 7]

図10から自明であるように、IP仮説のもとでは文という大きな文法単位を句範疇とみなすことが可能になり、さらに主要部の原理と二股枝分かれの原理から追加の仮定なしに構造を説明することが可能となる。

S'の構造

従属節または補文を導く語を補文標識英語版 (: complementizer) と言い、英語のthatifforがこれにあたる[注 8]。PSRでは、補文はS'という範疇であると考えられていた。

  • S' → COMP S

Chomsky (1986a)[10]では、このS'という範疇は機能範疇Cを主要部とするCPであると提案された[18]。例えば、I think that John is honest.という文は、以下の構造を持つ。

また、Chomsky (1986a)[10]の提案のもとでは、Wh移動英語版の着地点はCPの指定部 (Spec-CP) であると仮定される。例えば、What did John eat? というwh疑問文は、図12のように派生される[注 9]

この構造において、IからCへの移動は主語・助動詞倒置 (: subject-auxiliary inversion, SAI) と呼ばれ、さらにこの種の移動は主要部移動 (: head movement) と呼ばれる[注 10]

その他の句構造

  • 動詞句内主語仮説 (: VP-Internal Subject Hypothesis): Fukui and Speas (1986)[21]や Kitagawa (1986)[22]により提案された、文主語をSpec-VPに基底生成する仮説。
  • DP仮説: Abney (1987)[23]により提案された、名詞句はNPではなく機能範疇Dを主要部とするDPであるとする仮説。
  • VP shell: Larson (1988)[24]により提案された、二重のVP構造。Chomsky (1995)[16]では、上位に位置するVPは機能範疇v (リトルブイ、スモールブイ) を主要部とするvPとして昇華された。
  • PredP仮説: Bowers (1993, 2001)[25][26]により提案された、小節 (: small clause)[27] は機能範疇Predを主要部とするPredPであるとする仮説。
  • 裸句構造 (: Bare Phrase Structure, BPS): Xバー理論に代わる理論として、Chomsky (1995)[16]の提案した理論。Xバー理論のような「鋳型」構造の存在を棄却し、語や句を組み合わせる併合 (: Merge) という操作のみで統語構造を作り出す。節点に統語範疇のラベルを割り当てないという特徴ももつ。ミニマリスト・プログラム英語版も参照のこと。

  1. ^ 「Xバー式型」という日本語訳が与えられることもある。
  2. ^ 主要部ない句構造を指す。
  3. ^ 括弧内の句範疇は随意的であることを表す。
  4. ^ 主要部ある句構造を指す。
  5. ^ Jackendoff (1977)[4]では、Xトリプルバーレベルまで仮定されている。
  6. ^ その後、Pollock (1989)[15]によりIは T(ense)Agr(eement) の2つの機能範疇からなるという仮説が提案された。一方、機能範疇AgrはChomsky (1995)[16]で、LFでの機能がないことを理由に存在を棄却された。故に、現在の統語論では節は機能範疇Tを主要部とするTPであるという考え方が主流である。
  7. ^ 図10の構造において、文全体の語順は接辞移動 (: affix hopping、affix movement) により派生される。接辞移動とは、統語形成が終了したのちに音韻部門 (PF) で適用される操作で、屈折辞の /-s/ という「音」を動詞の位置に移動させ付加する[9]:16。Chomsky (1981)[14]では、この時制接辞移動は規則R (: Rule R) と呼ばれている。
  8. ^ 同様に補文を導くwhetherも補文標識として扱われることがあるが、Nakajima (1996)[17]などをはじめとする多くの研究者が、whetherはCPの主要部位置に生起するのではなく、CPの指定部位置 (Spec-CP) に生起するものとして扱っている (wh語の分析と同様)。これはすなわち、whetherはC0ではないと言うのと遜色なく、どの統語範疇に属するのかは研究者によって意見が分かれる。
  9. ^ Wh移動は、Chomsky (1973)[19]下接の条件英語版 (: Subjacency Condition) に従い、連続循環的 (: successive cyclic) に、すなわち全てのSpec-CPを経由して適用される。
  10. ^ 主要部移動の詳細議論はBaker (1988)[20]を参照のこと。
  1. ^ Chomsky, Noam (1955). The Logical Structure of Linguistic Theory. Cambridge, MA: MIT Press .
  2. ^ Chomsky, Noam (1957). Syntactic Structures. The Hague: Mouton .
  3. ^ Chomsky, Noam (1970). Remarks on Nominalization. In: R. Jacobs and P. Rosenbaum (eds.) Reading in English Transformational Grammar, 184-221. Waltham: Ginn.
  4. ^ a b Jackendoff, Ray (1977). X-bar-Syntax: A Study of Phrase Structure. Cambridge, MA: MIT Press 
  5. ^ a b c Chomsky, Noam (1965). Aspects of the Theory of Syntax. Cambridge, MA: MIT Press .
  6. ^ a b c d e f 『増補版チョムスキー理論辞典』研究社、2016年、521-523頁。 
  7. ^ 岸本, 秀樹 『ベーシック生成文法』ひつじ書房、東京、2009年。 
  8. ^ a b Radford, Andrew (2016). Analysing English Sentences: Second Edition. Cambridge: Cambridge University Press. p. 114-115 
  9. ^ a b c d e 荒木, 一雄 『英語学用語辞典』三省堂、1999年。 
  10. ^ a b c d Chomsky, Noam (1986a). Barriers. Cambridge, MA: MIT Press 
  11. ^ Basic English Syntax with Exercises”. 2021年10月22日閲覧。
  12. ^ Chomsky, Noam (1986b). Knowledge of Language: Its Nature, Origin and Use. New York: Praeger 
  13. ^ Saito, Mamoru; Naoki, Fukui (1998). “Order in Phrase Structure and Movement”. Linguistic Inquiry 29 (3): 439-474. 
  14. ^ a b c Chomsky, Noam (1981). Lectures on Government and Binding. Cambridge, MA: MIT Press 
  15. ^ Pollock, Jean-Yves (1989). “Verb Movement, Universal Grammar, and the Structure of IP”. Linguistic Inquiry 20 (3): 365–424. 
  16. ^ a b c Chomsky, Noam (1995). The Minimalist Program. Cambridge MA: MIT Press 
  17. ^ Nakajima, Heizo (1996). “Complementizer Selection”. The Linguistic Review 13: 143-164. 
  18. ^ Radford, Andrew (2016). Analysing English Sentences: Second Edition. Cambridge: Cambridge University Press. p. 86-92 
  19. ^ Chomsky, Noam (1973). Conditions on Transformations. In: Stephen R. Anderson and Paul Kiparsky (eds.) A Festschrift for Morris Halle, 232-286. New York: Holt, Rinehart, and Winston.
  20. ^ Baker, Mark C. (1988). Incorporation: A Theory of Grammatical Function Changing. Chicago: University of Chicago Press.
  21. ^ Fukui, Naoki and Speas, Margaret J. (1986) Specifiers and Projection. MIT Working Papers in Linguistics 8: 128-172.
  22. ^ Kitagawa, Yoshihisa (1986). Subjects in Japanese and English, Unpublished doctoral dissertation, University of Massachusetts. Reprinted in Kitagawa (1994), Routledge.
  23. ^ Abney, Steven P. (1987). The English Noun Phrase in Its Sentential Aspect. Doctoral dissertation, MIT.
  24. ^ Larson, Richard K. (1988). On the Double Object Construction. Linguistic Inquiry 19 (3): 335-391.
  25. ^ Bowers, John (1993). The Syntax of Predication. Linguistic Inquiry 24 (4): 591-656.
  26. ^ Bowers, John (2001). Predication. In: Mark Baltin and Chris Collins (eds.), The Handbook of Contemporary Syntactic Theory, 299-333. Blackwell.
  27. ^ Stowell, Timothy (1981). Origins of Phrase Structure. Doctoral dissertation, MIT.
  28. ^ a b Syntax I”. 2021年10月23日閲覧。
  29. ^ Chomsky, Noam (1972). Studies on Semantics in Generative Grammar. The Hague: Mouton 





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