弓矢 日本における弓矢

弓矢

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/07 02:26 UTC 版)

日本における弓矢

江戸時代の弓矢(和弓)

東洋の弓には大陸系の弓と太平洋系の弓の二つの系統があるが、日本の弓は両者の影響を受けて確立した[20]。一般には日本の弓を和弓、それ以外のものを洋弓と呼んでいる。


弓と半弓・大弓と小弓

大弓ともいう
世界最大の弓、和弓

日本の弓矢は正式には和弓または単に弓といい、古くは大弓(おおゆみ)ともいった{中国の大弓(たいきゅう)とは意味も構造も違う}。世界的な弓矢の種類においては長弓(ちょうきゅう)に分類される。本来は弓、矢ともに竹を主材としている丈(弓丈)の長い弓で矢をつがえる位置が弦の中心より下方にあり、馬上使用ができる長弓で日本においてのみ見られる特殊な弓矢である。このことは『魏志倭人伝』に記述されており、古い時代からすでに現在に伝わる姿が完成されていたことがわかる。

戦になどに使われる武具として、天井がある屋内や狭い場所や携帯に便利という理由から、鯨の髭や植物の蔓で補強した丈の短い和弓や、大陸からの渡来人によって短弓を基に考案された籠弓・李満弓や、箱などに携帯した小さな弓を半弓と呼んだ。

また戦や狩りに因らない弓矢もあり、小弓(こゆみ)といった。楊弓(ようきゅう)とも呼ばれ丈の短い弓であるが、ユーラーシア全般に見られた短弓とは、形状は違い弓は円弧を描くだけである。この楊弓は「座った状態」で行う、正式な弓術であった。平安時代に公家が遊興として使い、その後、江戸時代には庶民の娯楽として使用された。同じ平安時代には雀小弓(すずめこゆみ)といって子供玩具としての弓矢があり、という名称は小さいことや子供を示すことだといわれる。その他には、梓弓(あずさゆみ)といわれるの木で作られた弓があり、神職[27] が神事や祈祷で使用する弓を指し、祭礼用の丸木弓の小弓や、御弓始めの神事などでは実際に射るものは大弓もあり、大きさや形状は様々である。梓弓のなかで梓巫女[28] が呪術の道具として使用するものは小さなで持ち歩いたので小弓であった。

葦の矢・桃の弓 や蓬の矢・桑の弓など、それぞれが対となった弓矢があるが、祓いのための神事で使われたものである。詳しくは、祓い清めを表す言葉を参照。

特殊な矢

日本では洋弓銃(クロスボウ)や投石機(カタパルト)などは普及しなかったが、弓を使わず矢を飛ばす方法がある。また下記については世界各地で類似するものがある。

手矢
通常の弓矢の矢を手で投げる手段。
投げ矢
武器や遊興の道具(投壺を参照)として、投げることを前提に作られた矢。武器としては打根(うちね)といって長さ三尺の小槍ほどの大きさで矢羽がついていた。
吹き矢
主に江戸時代の懸け物の遊技の道具として使われた。その他には小動物の狩猟としての使用があったと考えられる。また、忍者の流派によっては忍術書に記述があることや、道具として僅かだが実物も残っているが、実際にどの程度の利用があったかは定かではない。構造は矢についてはや針状に細長く加工した竹に動物の体毛円錐に加工した紙の矢羽を矧いだもので、筒は木製で長尺の木に半円の溝を彫ったものを張り合わせた八角柱円柱の筒や、竹の内側を均等に加工したものや和紙を丸めたものがあり、それぞれの筒の内や外にを塗ったものがある。現在では吹き矢を、武道の一環として取り入れる流派や新しい武道として、嗜む者も少数ながらある。
神事や修練や非殺傷用として使用された矢
鏑矢
鳴り矢とも言い、矢に鏑というものをつけた物。鏑を付けた矢を射ると独特の風切り音を発するので、開戦の合図や邪気を祓うために使用したといわれる。騎射三物の開始の合図として用いられた。詳しくは「鏑矢」を参照。
木矢(きや)・木鏃(もくぞく)
木製の矢。狩猟や競技・弓道の修練に用いられ後に通し矢などの神事や捕具にも用いられた。詳しい分類は捕具#室町時代以前の捕具の木矢・木鏃の項を参照。

弓と矢の構造

弓と矢

弓(和弓)
甲矢(はや)(上)と乙矢(おとや)(下)
  • 弓(ゆみ)
    • 弓身(ゆみ)
      • 弓幹(ゆがら)
      • 弓弭(ゆはず)
    • 弦(つる)
  • 矢(や)
    • 鏃(やじり)
    • 矢柄(やがら)
      • 箆(の)
      • 矢羽(やばね)
      • 筈(はず)

楊弓

箙(えびら)を携え、矢を射ろうとしている藤原秀郷

楊弓(ようきゅう)小弓の一つ。

弓丈約85センチメートル(2尺8寸)で基本的な構造は和弓と同じである。本来は楊柳(ようりゅう)の木で出来ているが、真弓ともいい、檀(まゆみ)の木で出来ているものもある。
長さ約27センチメートル(9寸)で基本的な構造は和弓と同じである。

矢入れ

一般的には「矢筒」ともいい、先史時代の遺跡から出土する埴輪に矢筒が象られている。弓矢が日本の歴史の中で公家や武家にとって重要であったことから、矢入れも様々に変化し、儀礼用や戦いのためのものなど細分化した。とくに戦いにおいては、弓矢の改良に負けず劣らず改良され、弓矢を支える武具としての、陰の立役者ともいえるだろう。

矢入れの種類

記述は古い時代のものから順を追って表記する。矢筒は矢筈を、それ以外の矢入れは鏃を手にして引き抜き、弓につがえる。

  • 靭(ゆぎ)
  • 胡祿・胡(やなぐい)
  • 箙(えびら)
  • 空穂(うつぼ)
  • 尻籠(しりこ)・矢籠(しこ)
  • 矢筒(やづつ)

弓矢と的

古くはは弓矢を意味する。

  • 的矢は的と矢のことを指すが、敵や獲物ではなく的を対象とした矢のことでもあり、練習に使うものと祭礼に使うものがある。弓矢の鍛錬として的を射抜く行為(射的)。または的場を指す。
  • 的弓は的と弓のことを指すが、敵や獲物ではなく的を対象とした弓のことでもあり、練習に使うものと祭礼に使うものがある。弓矢の鍛錬として的を射抜く行為(射的)。または的場を指す。

には、色(柄)では星的、霞的、色的の3種類。大きさでは射礼、近的競技で用いる金的(三寸)八寸的、通常の一尺二寸。遠的競技で用いる100センチメートルの3種類ある。 金的は主に射礼で用いる。通常は三寸(直径約9センチメートル)ほかにも扇なども射礼で使われる。星的は八寸、尺二寸ともに中心を白地直径1/3の黒色同円のものを使う。霞的は中心から、中白(半径3.6センチメートル)一の黒(幅3.6センチメートル)二の白(3.0センチメートル)二の黒(1.5センチメートル)三の白(3.0センチメートル)三の黒(3.3センチメートル)と分かれている。星的は主に練習のときに使われる。色的は中心から10センチメートルずつ5つに区切られている。中心から金、赤、青、黒、白と色分けされている。得点制の場合は中心から10、9、7、5、3点となっている。主に実業団、遠的(得点制)の場合使われる。 近的競技の規則では木枠または適当な材料で作られた的枠に上記の絵を描いた的紙を貼ったものとし深さは10センチメートル以上とするとなっている。

その他の的

武芸のための的
遊興のための的
  • 公家の楊弓の的
  • 的屋が営む矢場や楊弓場の的 - 一般的には多少の差異はあっても的場の的を模したものや巻藁を使用した。
    • からくり的(絡繰的) - 江戸時代に始まり、大正時代まで主要都市・宿場町や温泉街に現物として残っていたが、現在は見ることができない。妖怪や悪者の描かれた木の板の書割りで、仕掛けが施してあり、矢が当った場所により、絡繰が動く的である。小型の唐繰的もあり、主に吹き矢に使用された。現在では軟球などを投擲(とうてき)する射的の的として、当ると唸り声をあげて、「動く鬼の人形(鬼泣かせ)」にその名残が見て取れる。
    • 滅多的 - 目隠しまたは、的の手前に垂れ幕の布で隠すことで、位置が特定できない的。滅多矢鱈(めったやたら)との繋がりがある的の名称となっている。矢鱈の語源は雅楽にあるとされ、語源はただの当て字とされるが、「めったやたら」には、「目星をつけず数を打てば当る」という意味もあり、滅多は「多くの物が無くなる」即ち見当が付かないことを指し、(タラ)は鱈腹(たらふく)の鱈で多いと言う意味があり、矢鱈は「たくさんの矢を放つ」という意味にもとれ、語源が弓矢にあることを窺わせる。

  1. ^ 紀元前500年頃(縮小模型)。
  2. ^ a b 広辞苑第六版「弓矢(ゆみや)」
  3. ^ a b 広辞苑第六版「弓矢(きゅうし)」
  4. ^ a b 世界大百科事典第2版「弓矢」
  5. ^ 松尾牧則『弓道 その歴史と技法』日本武道館、2013年、14頁。 
  6. ^ 北米先住民のショション族による。
  7. ^ a b 松尾牧則『弓道 その歴史と技法』日本武道館、2013年、2頁。 
  8. ^ 松尾牧則『弓道 その歴史と技法』日本武道館、2013年、4-5頁。 
  9. ^ 松尾牧則『弓道 その歴史と技法』日本武道館、2013年、10頁。 
  10. ^ 北米先住民のイヌイットが使用する。
  11. ^ 先史時代の中央アメリカで出土した。
  12. ^ a b c d e 松尾牧則『弓道 その歴史と技法』日本武道館、2013年、19頁。 
  13. ^ a b c d e f 松尾牧則『弓道 その歴史と技法』日本武道館、2013年、20頁。 
  14. ^ a b 松尾牧則『弓道 その歴史と技法』日本武道館、2013年、21頁。 
  15. ^ 松尾牧則『弓道 その歴史と技法』日本武道館、2013年、22-23頁。 
  16. ^ 松尾牧則『弓道 その歴史と技法』日本武道館、2013年、24-25頁。 
  17. ^ 古代と 現代のリリース 射法について(モース著・日本語訳)”. 2024年5月7日閲覧。
  18. ^ a b c d 松尾牧則『弓道 その歴史と技法』日本武道館、2013年、27頁。 
  19. ^ 松尾牧則『弓道 その歴史と技法』日本武道館、2013年、28-29頁。 
  20. ^ a b c d e 松尾牧則『弓道 その歴史と技法』日本武道館、2013年、29頁。 
  21. ^ そのうち洋弓銃は警察の武器、軍隊兵器として採用する国もある。[要出典]
  22. ^ ヤモリが象られた。
  23. ^ 善一田古墳群(ぜんいちだこふんぐん)・善一田古墳公園|大野城市”. www.city.onojo.fukuoka.jp. 2024年2月1日閲覧。
  24. ^ 古墳時代における金工品生産-付着する織物の加工技術についての分析を中心に-”. KAKEN. 2024年2月1日閲覧。
  25. ^ 黒部市誌 越中若栗城の女さむらい大将
  26. ^ Archery: Special Ottoman Shooting with a Majra or Nawak / www.archery-thumbring.com(Youtube 投稿者:Bogen Daumenring)
  27. ^ 神主巫女などの総称。
  28. ^ 祈祷師口寄せなどともいわれる。
  29. ^ 『新明解国語辞典』, 第5版。
  30. ^ a b 言葉「やばい」の使用は古くからあり、1955年(昭和30年)5月発行の『広辞苑』第一版2144頁で形容詞「危険である」の隠語と推論され、さらに1969年(昭和44年)5月発行第二版2227頁では「やば」は不都合、けしからぬ、奇怪として『東海道中膝栗毛』の使用例を引用し、「危険」の使用例も示している。1915年(大正4年)5月発行京都府警察部出版、警視富田愛次郎監修『隠語輯覧』二類、三類でも同様の意味合いで載ると復刻版の『隠語辞典集成』第2巻1996年(平成8年)12月大空社発行(ISBN 4-7568-0333-4/-0337-7)は記載している。
  31. ^ Rajasthan, Bundi作画,1730年:ロサンジェルス州立美術館 所蔵。
  32. ^ 吉祥天 コトバンク
  33. ^ 頭はサル、胴体はタヌキ、手足はトラ、尾はヘビ。元はトラツグミの不気味な鳴き声のみから想像したもので形は曖昧だったともいう。
  34. ^ 弓張り月と表記した場合は月のこと。
  35. ^ (中程度の大きさ)ランゲル・セント・エライアス国立公園:アラスカ州
  36. ^ 題名The Education of Achilles作画Donato Creti, 1714年:ボローニャ美術館所蔵。
  37. ^ アルブレヒト・デューラー画。






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