紫
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紫の色料
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顔料
無機顔料
- 酸化鉄紫 mars violet
- 黄味の乏しい暗種の酸化鉄赤のこと。天然にも存在し、日本では紫土(シド)として産する。近年では、1975年(昭和50年)の法輪寺の三重塔再建に際し、彩色に用いられた。
- 紫群青 ultramarine violet
- 赤味の強い色目の合成ウルトラマリンのことである。
- マンガン紫 manganese violet
- 1868年、ニュルンベルクで初めて製造された。極めて堅牢な顔料であり、水分にさらされない環境下での保存においては信頼性が高い。さまざまな異名がある。
- コバルト紫 cobalt violet
- 砒酸コバルト、燐酸コバルト、コバルト-リチウム-燐 酸化物固熔体、含水燐酸アンモニウムコバルト、ホウ酸コバルトなどがある。いずれも粗粒で着色力に乏しい。また色がやや淡い。極めて高価な顔料である。また、一部では燐酸コバルト八水和物も顔料として使用されるが、安定性を欠くため好ましくない。
有機顔料
- インジゴイド系紫
- キナクリドン系紫
- オキサジン系紫
- アントラキノン系紫
- カルボニウム系紫
- キサンテン系紫
染料
天然染料
紫貝(パープル)
特定の巻貝の口の近くにある色素腺を用いる[1](巻貝の鰓下腺から出た分泌液を染料の原料とする)。最も簡単な方法はこれらの巻貝の色素腺を集めてきて、その汁で染めて日光にさらして紫色に染める方法である[1]。
しかし、古代からチルスの特産とされたチリアンパープル(ティリアンパープル)は、大規模な工場生産で発酵染めの一種であった[1]。プリニウスの『博物誌』によると腺の部分を塩漬けにして3日置き、鉛の鍋で10日間ゆっくりと温めたものを染色液にしたとされ、尿を使用することもあったという(アンモニア水として反応させる役割)[1]。
なお、この色素は臭化化合物の6,6'-ジブロモインディゴであることが分かっている(インディゴを参照)。
巻貝1個から採取できる粘液は微量であるため、服1着の染色には巻貝数千から数万個を必要とした。中世の地中海では染色目的による巻貝の乱獲が進み、大航海時代に入る頃には巻貝が激減し、貝による紫染色は廃れていった。
南米ではペルーでも紀元前200年頃には貝紫による染色が行われていた[1]。マヤ文明のあったユカタン半島地方の西、現在のメキシコ南部のオアハカ地方でも、別種の巻貝の分泌液を染料とする同様の染色が伝統的に行われている。ここでは巻貝から分泌液を採取した後巻貝を海に戻したため、巻貝の個体数はあまり減っておらず、現在でもこの染色法は行われている。
日本産の貝でもアカニシやイボニシなどで貝紫染色を行うことができる[1]。
紫草の根
ムラサキの根は紫根(しこん)と呼ばれ、これを乾燥して粉末状にした上で湯に溶かして色素を抽出し、生地に灰汁による媒染を数十回施してようやく染物が完成する。紫根の持つ紫色の色素は、この植物から名を取ってシコニン (Shikonin) と命名されている。もともとムラサキが栽培困難なうえ、染色に手間暇がかかるため、紫根による染物は高価である。
なお、紫根は傷の殺菌作用などを持つために、漢方では生薬としても利用されている。
紫キャベツ(赤キャベツ)
紫キャベツ(赤キャベツ)の持つ紫色の色素はアントシアニン (anthocyanin) である("cyan" とあるが、シアン化物ではない)。この色素の水溶液は、強酸性下でマゼンタに近い鮮やかな赤紫色、弱酸性下で薄赤紫色、中性下で紫〜青紫色、弱塩基性下で青緑色、強塩基性下で黄色を示す。このように水溶液の色が変化するため、pH指示薬として利用できる。また、酸性下で鮮やかな赤紫色を発色するため、食品への着色料として用いられることが多い。食品の原材料名には「紫キャベツ色素」「アントシアニン色素」などさまざまな呼称で明記されている。
アントシアニンは紫キャベツの葉のみならず、黒豆、ブルーベリーやアサガオの花弁など多くの植物に含まれている。アジサイの花弁にも含まれており、土壌のpHやアルミニウムイオン濃度などによって花弁の色は異なる。
この色素の溶液は、紫キャベツの葉やアサガオの花弁などを60℃程度の蒸留水または無水アルコールに30分ほど浸すと得られる。そしてこの溶液はそのままpH指示薬として利用できる。
人工染料
モーブ mauve
1856年に発明された、世界初の合成染料である。これはアニリン染料の一種であり、この色素はモーベイン (Mauveine) と命名された。「モーブ」(mauve) はフランス語で葵、特にゼニアオイ (en:Malva) を意味する。
この発明は、特にイギリスではニュースとなった。パープル貝の分泌液などきわめて高価な天然染料しかなかった発明当時、高級な色とされたものをより安価で染色できるようになったからである。間もなく別の赤紫系合成染料フクシン(後述)が発明されたため、合成染色市場を独占するほどには至らなかったが、この色の服は流行し、合成染色事業は大成功を収めた。
現在では染料としては他の合成染料が用いられていることが多く、この名は色名として用いられる(モーブ (色)を参照)。
フクシン (fuchsin, fuchsine)
モーブに続いて、1859年に発明・発表された色素である。フランスの実業家ルナール・フレール (Renard Frères) の専属化学者ヴェルガンにより発明された。このアニリン系色素は固形では緑色をしているが、熱湯やエタノールに溶解させると赤紫色に変化する。さらに少量のアルデヒドを加えると紫色になる。マゼンタの染料・顔料に使われる。
現在ではこの色素による赤紫や紫色の染色が行われるほか、印刷インクや、実験観察のための細胞の染色やアルデヒドなどの分析試薬にも用いられる。
この鮮やかな赤紫色を発色する色素は、フクシアの花の鮮やかな赤紫色に見立ててフクシンと名づけられた。これは、フクシアの命名のもととなったドイツの植物学者フックス (en:Leonhart Fuchs) の単語の意味がドイツ語で「キツネ」 (Fuchs) であることと、実業家ルナールのフランス語での意味もまたキツネ (renard) であることをなぞらえた命名でもある。
フクシンによって発色される色はフクシャとも、マゼンタとも呼ばれる。この色素による染色が発売された1859年、イタリアとフランスの連合軍がオーストリア=ハンガリー帝国軍を破る戦争が起きていた(マジェンタの戦い)。色名は、この戦いの最後の戦勝地マジェンタ (Magenta) を記念して名づけられたものである。
なお、この年とほぼ同じく、イギリスでドイツの化学者ホフマンにより同系統のアニリン赤色素・ローズアニリン (rosaniline) が発明されている。この色素も、マゼンタ色として使用される。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v 高木豊. “海の紫”. 神陵文庫 第11巻. 財団法人三高自昭会. 2023年1月15日閲覧。
- ^ 『角川大字源』「紫」
- ^ 藥用植物圖像數據庫 - 記錄頁面
- ^ 小松英雄『日本語の歴史』 ISBN 4305702347
- ^ a b c d e f 山口さずか「色彩に関する言語研究」『東京女子大学言語文化研究』第18巻、東京女子大学、2010年、56-69頁、ISSN 0918-7766、NAID 120006512182。
- ^ a b 澤田 忠信. “古代紫染料(6,6'-ジブロモインジゴ)の現代社会への蘇りを目指して”. 科学技術振興機構新技術説明会. 2023年1月15日閲覧。
- ^ 井上浩一『歴史学の慰め アンナ・コムネナの生涯と作品』(2020年 白水社) P13
- ^ "Porphyrogennetos" in Oxford Dictionary of Byzantium, Oxford University Press, New York & Oxford, 1991, p. 1701. ISBN 0195046528
- ^ Lane, Nick, “Born to the Purple: the Story of Porphyria”. Scientific American (2002年12月16日). 2008年10月19日閲覧。
- ^ 『論語』陽貨第十七。ウィキソース論語/陽貨第十七。
- ^ 『旧唐書』巻45・与服志。ウィキソース舊唐書/卷45。
- ^ 『隋書』巻12・礼儀志7。ウィキソース『隋書』/卷12
- ^ 『日本書紀』巻第22、推古天皇16年8月壬子条。新編日本古典文学全集『日本書紀』2の558-559頁。
- ^ 冠位十二階については『日本書紀』巻第22、推古天皇11年12月壬申(5日)条。新編日本古典文学全集『日本書紀』2の540-543頁。紫とする学説をめぐっては、「冠位十二階#色」と、その脚注に記した文献を参照。
- ^ 『日本書紀』巻第24、皇極天皇2年10月壬子条。新編日本古典文学全集『日本書紀』3の76-77頁。
- ^ 『日本書紀』巻第25、大化3年是歳条。新編日本古典文学全集『日本書紀』3の166-167頁。これ以後、養老律令に至る位階と紫色の関係については、深紫と浅紫の両記事を参照。
- ^ 平成19海外輸出環境現地調査報告 タイ編 (農林水産省)
- ^ タイにおける曜日毎の色と仏像(外務省)
- ^ purple prose(ランダムハウス英和大辞典-goo英和辞典)
- ^ purple patch(ランダムハウス英和大辞典-goo英和辞典)
- ^ Matthew A. Douglas; David Strutton (2009), “Going “purple”: Can military jointness principles provide a key to more successful integration at the marketing-manufacturing interface?”, Business Horizons 52 (3): 251-263, doi:10.1016/j.bushor.2009.01.004, ISSN 0007-6813
- ^ “Sendouts.com Ad Capitalizes on Absentee President; Rodgers Townsend Has A Projected Winner with Its Topical Ad Campaign”. PR Newswire. (2000年11月13日) 2016年6月10日閲覧。
- ^ 紫の朱を奪う(コトバンク)
- >> 「紫」を含む用語の索引
- 紫のページへのリンク