空洞化 空洞化の概要

空洞化

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/11/07 14:12 UTC 版)

市街地の空洞化については、ドーナツ化現象を参照のこと。

日本

日本の製造業における海外生産比率の推移
現地法人売上高÷ (現地法人売上高+国内法人売上高)[2]

日本では、大きく4つのタイミングで産業空洞化に関する議論が起きている[3]

  1. 1980年代後半、プラザ合意による円高を背景とした国内工場移転。
  2. 1990年代中頃、円高を背景とした国内工場移転。
  3. 2000年代WTO加盟を契機に、コスト削減のため企業のグローバル化が進み、「世界の工場」として急速に台頭した中国など新興国への国内工場移転。
  4. 2010年代世界金融危機により各国の中央銀行が大規模な量的金融緩和を行ったのに対し、日本銀行による量的金融緩和が相対的に不足したために起きた円高を背景とした産業空洞化議論。

製造業の海外生産比率

内閣府の調査によると、日本の製造業の海外生産比率は、1985(昭和60)年度は3.0%であったが、1990平成2)年度は6.4%に達し、2009(平成21)年度は17.8%となっている。特に、これまで日本の輸出の大勢を占めてきた自動車等の輸送用機械や電気機器の海外生産比率が他の産業と比べて高くなっている。

中国の安い人件費によって日本の産業は空洞化してしまう」という議論について、経済学者の伊藤修は2007年の自著において、リカード比較生産費説を根拠に「(中国への)『全面敗退』はありえない。実際に中国は日本から巨額の輸入をしている」と主張していた[4]

産業空洞化による問題点としては、国内における雇用機会の喪失、地域産業の崩壊、技能ノウハウを生む生産現場の劣化、貿易黒字を生む国際競争力の減退・喪失といった影響が挙げられる。

産業空洞化による問題は産業構造の転換によって解決できるという主張もある。経済学者飯田泰之は「実証研究で、産業間の移動が激しいほど経済が成長するという統計もある」と主張する[5]。また伊藤修は「日本経済全体で見れば、ある産業が縮小しても他の産業が代わりに拡大するため、空洞化に直結しない。問題は、縮小する産業から拡大する産業に労働力などが、容易に移動できないことである」と主張する[6]大和総研は「技術革新によって空洞化の痛みは和らぎ、産業構造の転換が実現可能となる」としている[7]

影響

  • 地域産業の崩壊
    • 経済のグローバル化により、製造業も生産拠点の海外移転など「適地適産」の傾向を強めた。日本の地方にあった、中心となる企業の工場とその周辺に関連産業が立地する垂直分業体制は、生産拠点の海外移転により打撃を受けた。特に一企業への依存度が高いいわゆる「企業城下町」や、特定業種の地場産業が集積する地方都市における雇用への影響は深刻なものがある。
  • 競争力の低下
    • 企業としては国際競争にさらされる中で、競争力強化のため、有利な立地を求めて工場や物流拠点等を海外へ展開することは当然の行動といえる。その結果、日本経済が技術面において経済の発展基盤を喪失し、長期的には科学技術立国としての基盤が危うくなりうる。

アメリカ

世界最大の市場規模を誇るアメリカにおいても、グローバリゼーションにより製造業の空洞化を招いた。そのため、ベンチャー企業が開発した新しい商品を作ろうにも、生産どころか試作品すら作れないという状態が見られる[8]。アメリカでも主な工場の移転先は中国で、電子機器や家具など広範な産業が海外へ移転した結果、設備等の生産能力や、人材等の品質管理能力は大きく失われた[8]。一方で、2000年代後半にはドル安、原油高、主な競争相手である中国の人件費の増加により、以前よりも相対的に価格競争力が強くなっている[8]


  1. ^ 空洞化 デジタル大辞泉Weblio辞書
  2. ^ 海外事業活動基本調査 経済産業省
  3. ^ 産業の空洞化は何が問題か? 中村吉明、独立行政法人経済産業研究所、2002年1月15日寄稿
  4. ^ 伊藤修 『日本の経済-歴史・現状・論点』中央公論新社〈中公新書〉、2007年、181頁。
  5. ^ 勝間和代宮崎哲弥、飯田泰之『日本経済復活 一番かんたんな方法』光文社〈光文社新書〉、2010年、53頁。
  6. ^ 伊藤修『日本の経済-歴史・現状・論点』中央公論新社〈中公新書〉、2007年、180頁。
  7. ^ 大和総研 『最新版 入門の入門 経済のしくみ-見る・読む・わかる』 日本実業出版社・第4版、2002年、121頁。
  8. ^ a b c 製造業の世界地図に変化あり コスト高の今、米国は中国から雇用を取り戻せるか」日経ビジネスオンライン、日経BP、2008年6月30日付配信。オリジナルのアーカイブ。


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