時間
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/24 07:10 UTC 版)
「時間」という言葉・概念の基本的な意味
「時間」という言葉は、以下のような意味で使われている。広辞苑[2]で挙げられている順に解説すると次のようになる。
- 時の流れの2点間の長さ[2]。時の長さ[2]
- (あくまで俗用。下で解説)時刻を指す用法
- 空間と共に、認識のまたは物体界の成立のための最も基本的で基礎的な形式をなすものであり[3][4][5]、いっさいの出来事がそこで生起する枠のように考えられているもの[6]。
1. の意味の時間、すなわち時の長さというのは「この仕事は時間がかかる[7]」とか「待ち合わせ時刻まで喫茶店で時間をつぶす[7]」とかのように用いられている概念である。長さの意味での時間を数で示す表現を日本語および英語で挙げてみると例えば「5時間 (five hours)」「2日(2日間、two days)」「4ヶ月 (four months)」などがある。
2.の用法、時間という言葉を時刻という意味で用いてしまう用法は、広辞苑や日本語大辞典の解説によるとあくまで俗語である[4][8]。岩波『国語辞典』でも日常語[5]としている。つまり「時間」を時刻の意味で使ってしまう用法は正しい用法ではない。なお時刻は、ある一瞬を指す概念である。例えば「本日14時20分」などである。時刻については別記事「時刻」が立てられているのでそちらで詳説する。
3. の意味の時間、すなわち哲学的概念としての時間は、まず第一に人間の認識の成立のための最も基本的で基礎的な形式という位置づけである。カントなどの指摘に基き現在まで用いられ日々用いられるようになっている意味である。広辞苑では3.の「時間」は、1.と 2.の両方を併せたような概念、とも解説されている[2]。
当記事では3. や 1.を中心として解説する。2については基本は別記事「時刻」で扱うが、(広辞苑でも解説されているように)3.の意味の時間は1.と2.を併せたような概念なので、2.の意味についても適宜言及する。
- 3.について
時間というのはあまりに基礎的で、あまりにとらえがたく[注 1]、人は比喩を用いて川の流れなどに喩えている[9]。人間というのはとらえどころのない対象については比喩を用いて表現し、それを理解のきっかけとして用いようとする[9]。ただし、比喩というのは、異なるものどうしを結びつけて用いるものなのであり、つまり、本当は「時間」は「流れ」ではない[9]。時間は本当は"流れ"ではないからこそ、比喩として成立している[9][注 2]。時間を「流れ」に譬える比喩としてはたとえば、「過去から未来に絶えず移り流れる[5]」とか「過去・現在・未来と連続して流れ移ってゆく」[3]とか「過去・現在・未来と連続して永久に流れてゆくもの」[8]とか、「過去から未来へと限りなく流れすぎて」[6]とかがある。時間を「流れ」として比喩的にとらえることに関しては、「過去から未来へと流れている」とする時間観と、「未来から過去へ流れている」とする時間観がある。 時間というのは人間にとっては比喩で表現して理解のとりかかりにしようとするくらいがせいぜいであり、正攻法で知的に考察しようとすればするほど困難に突き当たり理解しがたいものなので、時間について考察したアウグスティヌスは「私はそれについて尋ねられない時、時間が何かを知っている。尋ねられる時、知らない[10]」と述べた。
長さとしての時間
現代の時間の単位
時間の長さを表すのに用いられる計量単位)としては、国際単位系(SI)においては、唯一、秒 (second) だけがSI単位となっている。
ただし日常的には秒以外に、多くの国や地域において、分 (minute)、時 (hour)、日 (day)、月 (month)、年 (year) が用いられており、しばしば週 (week) も用いられる。また、十年紀 (decade)、世紀 (century)、千年紀 (millennium) なども使われる場合がある。
上記のうち、分 (minute)、時 (hour)、日 (day)の3つは、SI併用単位である。
時間を表すもの
人はもともと何かの変化を《時間そのもの》として感じていた、何かの変化と時間をはっきりと区別していなかった、ということは学者によって指摘されることがある(下の「古ゲルマン」などでも述べる)。
《年》は神話的・宗教的概念とも深く結び付いていることが指摘されるが(後述)、一方で人類の農耕活動の定着や知的活動の高まりと関連付けられて説明されることのあるものであり、古今東西の文明で広く用いられている。
《週》は7日をひとまとめと見なす概念・制度(7曜制)であるが、近・現代になるまで万国共通とは言えない状態であった。例えば日本では、平安期に伝わりはしたものの実際上は用いられておらず、生活周期としても日々の意識としても無きにひとしかった。日本人は10日等ごとに何かを行っていた。明治政府が国策として西洋各国に倣い法律で定めたことで日本に広まった。何日かをひとまとまりとして見なす文化・制度としては、例えば5曜制、6曜制もあり、10日、90日などをひとまとまりと見なす文化もある[11]。7日をひとまとまりと見なす文化は、(確かなことは判らない面もあるが)バビロニアが起源だとも言われている。そしてユダヤ人がバビロニアに捕虜として連行された時に(バビロン捕囚)その地でその習慣を取り入れ、ユダヤ教文化からキリスト教文化へと継承され、同文化が広まった結果7曜制も世界に広まったと言われている。キリスト教と一体化していた王権と敵対・打倒し成立した革命政府(たとえばフランス革命政府、ロシア革命政府など)では7曜制を廃止して10日や5日を週とする制度を定めた時期もあったという[11]。
機械式時計が制作されるようになると、天体とは切り離された人工的な時間概念が意識されるようになった。時計は、より短い周期で振動するものを採用することで精度を上げる技術革新が続き、遂には原子の発する電磁波の周波数によって精密に時間を計測できるようになった。これが原子時計である。
現代の国際単位系では、1967年以降、時間の基本単位として秒を原子時計によって定義している。すなわち、「秒(記号は s)は、時間のSI単位であり、セシウム周波数 ∆νCs、すなわち、セシウム133原子の摂動を受けない基底状態の超微細構造遷移周波数を単位 Hz(s−1 に等しい)で表したときに、その数値を9192631770 と定めることによって定義される[12]」とされている。国際単位系におけるこの秒の定義は、世界的に統一されたものとして、社会生活や産業活動において最もよく使用されている。
注釈
- ^ 認識の基礎形式であり、もともと人間の認識の根底部分に、思考や認識と不可分の状態で横たわっており、逆に言うと、時間を人間の認識から分離して、客観的な対象として認識することがきわめて困難なため。
- ^ 時を川にたとえて川が流れていても本当は時間が流れているわけではなく、また時計の針が回っていても、回っているのはあくまで針なのであって、本当は時間がぐるぐる回っているわけではない、とも金田一秀穂は指摘した。
- ^ ラテン語形: Caerus。
- ^ ただし湯川秀樹は、ニュートンは自然の空間や時間が本当は均一ではない、と睨んでいたからこそ、あえて自らの体系の中で仮想されている空間や時間を「絶対空間」や「絶対時間」と呼んだのだ、といったことを指摘している[16]。
- ^ ヘルマン・ミンコフスキーにより示された通り、ローレンツ変換はこの4次元空間の座標軸の回転と見なせる。
- ^ タイムトラベルを扱うSFや疑似科学ではタイムパラドックスの解消のために分岐時間を使う、などという設定、発想が多く見られる。
出典
- ^ 真木悠介 『時間の比較社会学』 岩波書店、2003年
- ^ a b c d 広辞苑第六版
- ^ a b 「日本国語大辞典-第六版」小学館 2001年6月
- ^ a b 「広辞苑-第五版」岩波書店 1998年11月
- ^ a b c 「国語辞典-第六版」岩波書店 2000年11月
- ^ a b 「大辞林-第三版」三省堂 2006年10月
- ^ a b 『大辞泉』
- ^ a b 「日本語大辞典」講談社 1989年11月
- ^ a b c d 『NHK高校講座 あらためまして ベーシック国語「比喩表現」』金田一秀穂解説担当。
- ^ a b アウグスティヌス『告白』第11巻第14節
- ^ a b “曜日の話”. 2011年4月12日閲覧。[リンク切れ]
- ^ 国際単位系(SI)第9版(2019)日本語版 p.99、産業技術総合研究所、計量標準総合センター
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q 阿部正雄「時間」『宗教学辞典』東京大学出版会、1973年。
- ^ a b 『Newton』別冊「時間とは何か」改訂版 2013年5月13日
- ^ a b c d e f g h i j k l 安部謹也『世界大百科事典』1988年。
- ^ 出典:『湯川秀樹著作集』岩波書店。
- ^ 『アインシュタイン自伝ノート』東京図書、1978年9月。ISBN 448901127X。 p.77-80
- ^ 吉田伸夫『明解量子重力理論入門』講談社、2011年、61頁。ISBN 978-4-06-153275-5。
- ^ a b ロバート・L・フォワード 『SFはどこまで実現するか 重力波通信からブラック・ホール工学まで』 久志本克己訳 講談社〈ブルーバックス〉、1989年、247頁
- ^ 培風館『物理学辞典』
- ^ “Bizarre quantum experiment suggests time can run backwards”. Daily Mail Online (2015年2月10日). 2017年12月15日閲覧。
- ^ 寺田寅彦「映画の世界像」寺田寅彦全集第八巻岩波書店 1997年 所収 p150
- ^ ピーター・コヴニー;ロジャー・ハイフィールド「時間の矢、生命の矢」草思社 1995年3月 p28
- ^ 田崎秀一「カオスから見た時間の矢―時間を逆にたどる自然現象はなぜ見られないか」(ブルーバックス)講談社 2000年4月 p18
- ^ Arthur Stanley Eddington "The nature of the physical world (The Gifford lectures)" MacMillan (1943) ASIN B0006DFTN4
- ^ 英語版ウィキペディア "時間の矢"
- ^ 戸田盛和「物理読本(1) マクスウェルの魔―古典物理の世界-」岩波書店 1997年10月 p108
- ^ 藤原邦男;兵頭俊夫「熱学入門―マクロからミクロへ」東京大学出版会 1995年6月 3章
- ^ a b c 長倉三郎、他(編)「岩波理化学辞典 - 第5版」岩波書店 1998年2月 "可逆性"、"時間反転"
- ^ 渡辺 慧 「時間の歴史―物理学を貫くもの」東京図書 1987年5月
- ^ a b 吉永 良正(編)「時間とは何か?(別冊日経サイエンス 180)」日経サイエンス 2011/08
- ^ a b マジョリー・F・ヴァーガス 著、石丸正 訳『非言語コミュニケーション』新潮社〈新潮選書〉、1987年、173頁。
- ^ 本川達雄『ゾウの時間、ネズミの時間』中央公論社、1992年、ISBN 4121010876
- ^ 鋼屋ジン 古橋秀之 「斬魔大聖デモンベイン 軍神強襲」 角川スニーカー文庫 2006/8
- ^ ロバート・L・フォワード 『SFはどこまで実現するか 重力波通信からブラック・ホール工学まで』 久志本克己訳 講談社〈ブルーバックス〉、1989年、259頁
- ^ 山本弘「トンデモ本?違う、SFだ!」 洋泉社 2004年7月
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