化け猫 史跡

化け猫

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/06/17 12:53 UTC 版)

史跡

妙多羅天女(みょうたらてんにょ) - 新潟県弥彦神社
詳細は内部リンク先を参照。由来として、文化時代の随筆『北国奇談巡杖記』にネコにまつわる怪異譚が記述されており、同書では「みょう」に「猫」の字をあてて「猫多羅天女」と表記されている[36]北陸地方の説話による別説では、老いたネコが老婆を食い殺してその老婆になりかわり、後に改心して妙多羅天として祀られたという「弥三郎婆話」があり、北海道・北奥羽地方の「三左衛門猫」など、類話が全国に伝わっている[4][37]
横浜市営地下鉄踊場駅の駅名の由来を刻む石碑
踊場駅4番出入口への通路にあるモニュメント
猫の踊り場(ねこのおどりば) - 神奈川県横浜市泉区
かつて東海道五十三次戸塚宿(現・神奈川県横浜市戸塚区)の醤油屋で、夜になると手拭が1本ずつなくなることがあった。ある夜に醤油屋の主人が仕事に出かけると、人のいないはずの寂しい場所から賑やかな音楽が聞こえた。見ると、そこには何匹ものネコたちが集まり、その中心では主人の飼いネコが手拭をかぶって踊っていた。主人は、手拭がなくなったのはあのネコの仕業かと納得したという。
このネコの踊っていた場所は踊場と呼ばれ、後には泉区の踊場交差点や横浜市営地下鉄踊場駅の駅名などに地名として残されることとなった。踊場交差点には1737年(元文2年)にネコの霊を鎮めるための供養塔が建てられており[38]、踊場駅構内には随所にネコをモチーフとしたデザインが施されている(画像参照)。
お松大権現(おまつだいごんげん) - 徳島県阿南市加茂町
江戸前期、加茂村(現・加茂町)の庄屋が不作にあえぐ村を救うために富豪に金を借りたが、すでに返済したにもかかわらず、富豪の策略で未返済の濡れ衣を着せられ、失意の内に病死。借金の担保になっていた土地は富豪に取り上げられてしまう。庄屋の妻のお松は奉行所に訴え出るも、富豪に買収された奉行は不当な裁きを下す。お松がそれを不服として藩主に直訴した結果、直訴の罪により処刑され、お松の飼っていた三毛猫が化け猫となり、富豪や奉行らの家を滅ぼしたという伝説に由来する。
お松大権現は、命をかけて正義を貫いたお松の墓所を祀ったもので、お松の仇を討った三毛猫は猫塚として祀られており、境内には全国的にも珍しいネコの狛犬もある[39]。直訴によって悪人を倒したという伝説から、勝負事にもご利益があるといわれ、受験シーズンには受験生の合格祈願も多い[40]
猫大明神祠(ねこだいみょうじんし) - 佐賀県杵島郡白石町
白石町・秀林寺の猫大明神祠
「鍋島の化け猫騒動」と同様、鍋島氏にまつわる怪異譚に由来する史跡。化け猫が鍋島勝茂の妾に化けて勝茂の命を狙うが、勝茂の臣下の千布本右衛門がそれを退治する。しかしそれ以来、ネコの祟りのためか千布家に跡継ぎの男子が生まれなくなってしまったため、化け猫を大明神として秀林寺(現・白石町)の祠に祀ったという。この祠には、7本の尾を持つネコが牙を向いた姿で刻まれている[39]
史実では、かつて白石を治めていた秀氏の秀伊勢守が、鍋島氏に尽くしたにもかかわらず、キリシタンの疑いをかけられて滅ぼされ、後に秀氏の残党が鍋島氏を怨んで抗ったことから、秀林寺では秀氏一派の暗躍が化け猫にたとえられたものと見ており、これが「鍋島の化け猫騒動」の原型になったとの説もある[24]
猫塚 - 東京都港区三田
有馬の化け猫騒動」に由来する史跡。港区立赤羽小学校に現存している[41]。その一帯は、江戸時代には久留米藩有馬家の上屋敷であった。
栽松院の猫塚 - 宮城県仙台市若林区連坊
仙台藩御馬乗(おうまのり)草刈昌之丞の飼い猫・清女(せいにょ)を祀った石碑。この猫は隣屋敷の飼い鶏を食い殺し、それを見咎められ数名の若い衆によって散々棒で打ち据えられたがそれでも再び取り食らったため、ついには日向ぼっこの隙を狙って鉄砲で撃ち殺された。石碑には猫塚の二文字と絵姿が刻まれており、建立当時は猫の目に金箔、首輪に朱が挿されていたという。のち文久三年1863年)にある好事家が仔細を栽松院和尚に尋ねて書き本に残したのが上記一件であり、地の文には猫を射殺したばかりに大芝居が始まったとある。
これを大正15年引用した郷土史家富田広重は和尚の口憚る様子や殿様の名が墨塗りで隠されていることからこの猫が身分ある屋敷の主に祟りをなしたと推察している。[42]一説によるとその主は片倉の殿様であったという。

注釈

  1. ^ 怪猫五十三次』等、映画化もされた。
  2. ^ 現代と違い、江戸当時の飼いネコは餌の栄養面があまり考慮されていなかったことなどから、10年以上生きることは少なかった[3]

出典

  1. ^ 湯本豪一編著『妖怪百物語絵巻』国書刊行会、2003年7月、105頁。ISBN 978-4-336-04547-8 
  2. ^ 京極夏彦 著「妖怪の宴 妖怪の匣 第6回」、郡司聡他 編『』 vol.0029、角川書店〈カドカワムック〉、2010年3月、122頁。ISBN 978-4-04-885055-1 
  3. ^ a b c d 笹間 1994, pp. 125–127
  4. ^ a b c d e 古山他 2005, pp. 156–161
  5. ^ a b 悳他 1999, p. 100
  6. ^ 寺島良安 著、島田, 勇雄、竹島, 純夫、樋口, 元巳訳注 編『和漢三才図会』 6巻、平凡社東洋文庫〉、1987年3月(原著1712年)、88-91頁。ISBN 978-4-582-80466-9 
  7. ^ 多田克己 著「狂歌百物語の妖怪たち」、京極夏彦 編『妖怪画本 狂歌百物語』国書刊行会、2008年8月、277頁。ISBN 978-4-3360-5055-7 
  8. ^ 妖怪ドットコム『図説 妖怪辞典』幻冬舎コミックス、2008年11月、95頁。ISBN 978-4-344-81486-8 
  9. ^ 石毛直道『食卓の文化誌』岩波書店〈同時代ライブラリー〉、1993年、180-187頁。ISBN 978-4-00-260136-6 
  10. ^ アダム・カバット『ももんがあ対見越入道 江戸の化物たち』講談社、2006年11月、139頁。ISBN 978-4-06-212873-5 
  11. ^ a b c d 鈴木 1982, pp. 446–457
  12. ^ 松谷 1994, pp. 252–271.
  13. ^ a b c 松谷 1994, pp. 171–174
  14. ^ a b 松谷 1994, pp. 194–207
  15. ^ a b 松谷 1994, pp. 214–241
  16. ^ a b 多田 2000, pp. 170–171
  17. ^ 大録義行 編『那珂の伝説』 上、筑波書林、1984年5月、42-43頁。 NCID BN10412291 
  18. ^ a b c 村上他 2008, pp. 82–97
  19. ^ 鍋島騒動コトバンク
  20. ^ 江戸の「化け猫」はなぜ行燈の油を舐めたのか?サライjp, 小学館、2017/9/15
  21. ^ a b 原田他 1986, pp. 670
  22. ^ 原田他 1986, pp. 694.
  23. ^ a b 斉藤他 2006, pp. 116–117
  24. ^ a b 多田他 2008, pp. 22–24
  25. ^ 「佐賀怪猫伝」『近世実録全書』 第2巻、坪内逍遥鑑選、早稲田大学出版部、1928年4月、6-7頁。 NCID BA49743422 
  26. ^ 『性風俗史年表』 昭和戦後編、下川耿史編、河出書房新社、2007年7月、12頁。ISBN 978-4-309-22466-4 
  27. ^ a b 日野 1926, pp. 156–168
  28. ^ 根岸鎮衛 著、長谷川強校注 編『耳嚢』 上、岩波書店〈岩波文庫〉、1991年1月(原著江戸時代)、221頁。ISBN 978-4-00-302611-3 
  29. ^ 根岸 & 江戸時代, pp. 359–360.
  30. ^ 神谷養勇軒 著「新著聞集」、早川純三郎編輯代表 編『日本随筆大成 第2期』 5巻、吉川弘文館、1974年2月(原著1749年)、350-353頁。 NCID BN06392656 
  31. ^ 古山他 2005, pp. 145–146.
  32. ^ 松浦清 著、中村幸彦中野三敏校訂 編『甲子夜話』 1巻、平凡社〈東洋文庫〉、1977年4月(原著江戸時代)、36頁。ISBN 978-4-582-80306-8 
  33. ^ 富永莘陽 著「尾張霊異記」、市橋鐸他 編『名古屋叢書』 第25巻、名古屋市教育委員会、1964年、68-69頁。 NCID BA3193441X 
  34. ^ 根岸 & 江戸時代, pp. 35–36.
  35. ^ 湯本豪一『図説 江戸東京怪異百物語』河出書房新社〈ふくろうの本〉、2007年7月、92頁。ISBN 978-4-3097-6096-4 
  36. ^ 鳥翠台北坙 著「北国奇談巡杖記」、柴田宵曲 編『随筆辞典』 第4巻、東京堂、1961年(原著1807年)、332-333頁。 NCID BN01579660 
  37. ^ 阿部敏夫 著、宮田登編纂 編『日本伝説大系』 第1巻、みずうみ書房、1985年11月、299頁。ISBN 978-4-8380-1401-9 
  38. ^ 村上健司『日本妖怪散歩』角川書店角川文庫〉、2008年8月、114-115頁。ISBN 978-4-04-391001-4 
  39. ^ a b 村上 2002, pp. 150–161
  40. ^ 村上健司『日本全国妖怪スポット』 3巻、汐文社、2011年7月、124頁。ISBN 978-4-8113-8805-2 
  41. ^ 「物語」に描かれた世界を体験し知的好奇心を満たす 東京探見・物語散歩」『私立中高進学通信』第309号、栄光ゼミナール、2019年8月、全国書誌番号:001212732020年5月16日閲覧 
  42. ^ 富田廣重『滅び行く伝説口碑を索ねて』第1輯、富田文庫、1926年、3-4頁






化け猫と同じ種類の言葉


固有名詞の分類


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「化け猫」の関連用語











化け猫のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



化け猫のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの化け猫 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS