ブルーギル ブルーギルの概要

ブルーギル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/24 23:20 UTC 版)

ブルーギル
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 条鰭綱 Actinopterygii
: スズキ目 Perciformes
: サンフィッシュ科 Centrarchidae
: ブルーギル属 Lepomis
: ブルーギル L. macrochirus
学名
Lepomis macrochirus
Rafinesque1819
英名
Bluegill

名称

本種の標準和名は「ブルーギル」である。鰓蓋(えらぶた)の後端に青黒い紺色の部分があり、鰓蓋(えらぶた)を英語で"gill"(ギル)と呼ぶことからブルーギルと名づけられた[1][2][3]

通称として単に「ギル」と呼ばれることもある[2]。原産地の米国カナダでは"bluegill"または"bluegill sunfish"と称され、"gill"と称されることはない。

サンフィッシュ類は北米大陸に広く分布し、現地では多くの種が生息し、ごく一般的な淡水魚であるため、文学作品にもしばしば登場する。しかしマンボウの英名が"ocean sunfish"で、こちらも単に"sunfish"とも呼ばれるため、英語圏の文学書を日本語に翻訳した際に、淡水産のサンフィッシュ類をマンボウと誤訳していることがある。

形態

成魚の体長は25cm程度になる[1][2][3]。原産地の北米では40cm程になる。生後1年程度までの幼魚は体形がやや細く、体側に7から10本の暗色横帯がある[4]。しかし、成長とともに体高が高く変化し、体色も濃灰褐色から暗褐色となって横帯も不明瞭になる[4]

フライパンに収まりやすい魚=“パンフィッシュ”と呼び習わされるLepomis 属の中でもさらに最も体高があるため側面形は円形に近く、体幅は左右に強く側扁する。背鰭の棘条部と軟条部はつながっている[2]。口は小さい[2]。口内、唇内側には細かい鋸歯状の歯が並ぶ。

体型に加え胸鰭が小さいため直線的な遊泳力はやや弱いが、背鰭、腹鰭、尻鰭はよく発達して細かく体の向きを変える能力に富む。

体色は変異があるが、およそ若い個体が淡い青緑褐色で、成体になると黒に近い青紫色になることが多い。腹面は黄色みを帯び、群の中で地位の高いオスはさらに胸部がレッドブレストサンフィッシュやピラニア・ナッテリー等がそうであるように赤く染まる。

左右の鰓蓋の上部に突出した皮弁があり(若い個体にはほとんどない)、その部分が紺色になっている。この部分に由来して"Bluegill sunfish"(ブルーギル・サンフィッシュ : い鰓蓋のサンフィッシュ)、略してブルーギルと呼ばれる。また水面から本種を見ると鰭が鈍い光沢のある青色に見える事もある。背鰭、腹鰭、尻鰭に鋭い棘条があり、不用意につかむと刺さり、出血することもある。

生態

原産地は北米大陸東部[3][4]。淡水性。湖沼、ため池、堀、公園の池などに生息しており、湖では沿岸部の水生植物帯、河川では比較的流れが緩やかな水草帯に生息している[4]。山上湖から河口汽水域まで生存可能な水温・水質の幅は広く、溶存酸素が不足していなければ水質汚濁にも比較的強い。身を隠すのに適し水流を遮ってくれるような障害物や複雑な水中地形の場所を特に好み、そのような環境では多くの個体が密集する。若い小型個体は表層近くで活発に動き回るが、よく成熟した大型個体は深い位置であまり動き回らずにいる傾向にある。捕食者としてはブラックバスナマズカワセミなどがいると考えられ、稚魚はドンコに食べられる可能性もあると考えられている。

雑食性で、昆虫類、植物、魚類、貝類、動物性プランクトンなどを捕食する[4]。雑食性だが動物食性が強く[2]、特に他の魚類の卵を好む[3]。餌料生物が少ない時には水草も食べる[1]

繁殖期は春から夏。この時期になるとオスは縄張り意識と闘争性が極度に高まるとともに、水底の砂泥を口で掘って浅いすり鉢状の巣を作り、メスを呼び込んで産卵させる。産卵・受精が終わった後もオスは巣に残り、卵に新鮮な水を送ったり、ゴミを取り除いたり、卵を狙う他の動物を追い払ったりして卵を守る[5]。1回の産卵数は平均的な個体で21,000から36,000粒である[4]仔魚が孵化した後もしばらくは仔魚の保護を行う。ムギツクに巣を襲われ、托卵されることもある。


  1. ^ a b c d 特定外来生物 ブルーギル、環境省近畿地方環境事務所野生生物課、2023年7月21日閲覧。
  2. ^ a b c d e f いばらき魚顔帳 ブルーギル(サンフィッシュ科)、茨城県、2023年7月21日閲覧。
  3. ^ a b c d ブルーギル、愛知県、2023年7月21日閲覧。
  4. ^ a b c d e f g h 巻末資料、東北地方環境事務所、2023年7月21日閲覧。
  5. ^ a b 片野修, 坂野博之「BORIS VELKOV:ウグイによるブルーギル卵の捕食効果についての実験的解析」『日本水産学会誌』2006年 72巻 3号 pp.424-429, doi:10.2331/suisan.72.424, 日本水産学会
  6. ^ a b c d e f 多紀保彦(監修) 財団法人自然環境研究センター(編著)『決定版 日本の外来生物』平凡社、2008年4月21日、164-165頁。ISBN 978-4-582-54241-7 
  7. ^ 山田寛一「ブルーギルの池中飼育(予報)」『滋賀県水産試験場研究報告』第23号、1971年、24-26頁。 
  8. ^ a b 渡邊洋之「水産試験場・釣り具メーカー・釣り人による日本でのブルーギル(Lepomis macrochirus)の放流について 1960-1975年 1960-1975年」『科学史研究』第53巻No.270、2014年、169-181頁, NAID 110009893183
  9. ^ “ブルーギル、陛下に贈られた15匹の子孫証明”. YOMIURI ONLINE (『読売新聞』). (2009年10月23日). オリジナルの2014年1月4日時点におけるアーカイブ。. https://archive.is/brjnQ 2018年12月25日閲覧。 
  10. ^ a b ブルーギル”. 国立環境研究所 侵入生物DB. 2018年12月25日閲覧。
  11. ^ 村上興正・鷲谷いづみ(監修) 日本生態学会(編著)『外来種ハンドブック』地人書館、2002年9月30日。ISBN 4-8052-0706-X p.119
  12. ^ 黒川哲治, 西澤栄一郎「生物多様性の保全に向けた外来種対策の経済的評価『水資源・環境研究』2004年 17巻 pp.23-34, doi:10.6012/jwei.17.23, 水資源・環境学会
  13. ^ 天皇陛下のおことば 第27回全国豊かな海づくり大会 平成19年11月11日(日)(滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール)
  14. ^ 片野修, 中村智幸, 山本祥一郎 ほか「長野県浦野川におけるブルーギル幼魚の胃内容物」『水産増殖』2005年 53巻 2号 pp.115-119, doi:10.11233/aquaculturesci1953.53.115, 日本水産増殖学会
  15. ^ a b 遊磨正秀, 田中哲夫, 竹門康弘 ほか「瀬田月輪大池における魚類群集の変遷 : 12年間の生物学実習の結果より」『滋賀医科大学基礎学研究』1997年 8巻 pp.19-36, 滋賀医科大学
  16. ^ 種生物学会『外来生物の生態学 進化する脅威とその対策』文一総合出版、2010年3月31日。ISBN 978-4-8299-1080-1 [要ページ番号]
  17. ^ 熊澤一正, 大杉奉功, 西田守一 ほか「ダム湖の水位低下を利用した定置網による外来魚捕獲とその効果」『応用生態工学』2012年 15巻 2号 pp.171-185, doi:10.3825/ece.15.171, 応用生態工学会
  18. ^ 齋藤大, 宇野正義, 伊藤尚敬「さくら湖(三春ダム)の水位低下がオオクチバスの繁殖に与える影響」『応用生態工学』2003-2004年 6巻 1号 pp.15-24, doi:10.3825/ece.6.15, 応用生態工学会
  19. ^ 【熱狂ゲノム】第1部 身近に迫る技術(1)遺伝操作で外来魚駆除 不妊化ブルーギル放流実験毎日新聞』朝刊2019年7月31日(1面)2019年8月1日閲覧
  20. ^ 西川潮, 米倉竜次, 岩崎敬二 ほか「分子遺伝マーカーを用いて外来生物の侵入生態を探る : 生態系管理への適用可能性(<特集1>生物学的侵入の分子生態学)」『日本生態学会誌』2009年 59巻 2号 p.161-166, doi:10.18960/seitai.59.2_161, 日本生態学会
  21. ^ 中尾博行, 川端健人, 藤田建太郎 ほか「外来魚ブルーギルの卵・仔魚に対する在来巻貝類による捕食」『魚類学雑誌』2006年 53巻 2号 p.167-173, doi:10.11369/jji1950.53.167
  22. ^ 米倉竜次, 苅谷哲治, 藤井亮吏 ほか「釣りによるブルーギル個体群の抑制」『日本水産学会誌』2007年 73巻 5号 p.839-843, doi:10.2331/suisan.73.839, 日本水産学会
  23. ^ a b c 比奈知ダム環境新聞第40号、独立行政法人 水資源機構 比奈知ダム管理所、2023年7月21日閲覧。
  24. ^ ★Catch&EAT!!〜外来魚の調理方法★” (PDF). 滋賀県農政水産部水産課. 2018年12月25日閲覧。
  25. ^ 遊漁の手帖” (PDF). 滋賀県農政水産部水産課. 2017年4月18日閲覧。


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