デュロキセチン デュロキセチンの概要

デュロキセチン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/05 14:16 UTC 版)

デュロキセチン
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
ライセンス EMA:リンクUS FDA:リンク
胎児危険度分類
  • US: C
法的規制
投与経路 経口投与
薬物動態データ
生物学的利用能〜 50% (32% to 80%)
血漿タンパク結合〜 95%
代謝肝代謝
CYP1A2
CYP2D6
半減期13.46時間
(40mg, β相, 1日目)
排泄尿中: 72%, 糞中: 18.5%
識別
CAS番号
116539-59-4 (free base)
136434-34-9 (HCl)
ATCコード N06AX21 (WHO)
PubChem CID: 60835
DrugBank APRD00060
ChemSpider 54822
KEGG D07880
化学的データ
化学式C18H19NOS
分子量297.41456 g/mol
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日本での適応は、うつ病・うつ状態に加え、糖尿病性神経障害・神経因性疼痛・線維筋痛症・慢性腰痛症に伴う疼痛である。機能性ディスペプシアの症状に効果があるとする医師も多い[1][2]

開発

フルオキセチン(プロザック)の開発にも携わった、イーライリリーによって1980年代後半に合成され、1988年に開発がスタートした。

しかし、1996年に第III相試験に入らないことを決定したイーライリリー社は開発から退き、日本での塩野義製薬の単独開発が始まり、その成果を見たイーライリリー社は1999年に再開発を始め、2001年にFDAに申請、2004年4月に承認された。2012年現在、日本をはじめ95カ国で承認されている。

日本では2010年4月にデュロキセチン塩酸塩(Duloxetine HCl)として、イーライリリーおよび塩野義製薬からサインバルタ商品名で薬価収載されている。

適応

デュロキセチン20mg(東和薬品後発薬

日本での適応は、うつ病・うつ状態、糖尿病性神経障害に伴う疼痛、線維筋痛症に伴う疼痛である。

日本では2012年2月に「糖尿病性神経障害に伴う疼痛」が適応された。2015年5月、「線維筋痛症に伴う疼痛」について適応された[3]。2016年12月に「変形性関節症」について、適応が追加された[4]

また、アメリカ合衆国では、糖尿病性ニューロパチー線維筋痛症全般性不安障害に適応があり、ヨーロッパでは、腹圧性尿失禁、糖尿病性ニューロパチー、全般性不安障害に適応がある。

薬理

結合特性[5][6]
レセプター/トランスポーター Ki (nM)
セロトニン 0.7~0.8
ノルエピネフリン 7.5
ドーパミン 240
5-HT2A 504
5-HT2C 916
5-HT6 419

デュロキセチンは既存のSNRI(ミルナシプランベンラファキシン)と同様にセロトニン(5-HT)およびノルアドレナリン(NA)の再取り込みを阻害し、シナプス間隙、細胞外の5-HTとNAの濃度を上昇させる。SNRIでも既存のSNRIと比べ、5-HTおよびNA再取り込み阻害作用が強く、ドーパミン(DA)再取り込み阻害作用はほとんどない。特徴としても、各神経物質受容体に対しての親和性が低く、抗コリン作用やα1拮抗作用による心毒性が少ないとされる。これらと5-HT, NA再取り込み作用の機序から、副作用を抑えた三環系抗うつ薬と見ることができる。

また、前頭前皮質におけるDAの濃度が上昇する。これは、前頭前皮質にDAトランスポーターの分布が少なく、そのためNAトランスポーターを介して前シナプス終末部に取り込まれる。しかし、デュロキセチンはNAトランスポーターを阻害するため、DAの再取り込みも阻害し、細胞外の遊離DAの濃度が高まるとされる。

抗うつ薬中断症候群も他のSSRIやSNRIに比べて軽いという[7]

併存疾患に対しての効果

うつ病患者には、大うつ病エピソード以外にも付随する症状を伴っている場合が多い。特に、慢性疼痛や血管運動症状などがあり、それに付随する形でうつ病患者では非ステロイド性抗炎症薬の使用量が多くなる傾向にある。

線維筋痛症などの慢性疼痛や血管運動症状のように5-HTとNA再取り込み阻害作用が適度なバランスである必要がある疾患に対し、

NA/5-HT レート
試料: ヒト トランスポーター
  5-HT NA DA NA/5-HT ratio
デュロキセチン 0.8±0.01 7.5±0.3 240±23 9.4
ベンラファキシン 82±3 2483±43 7647±793 30.3
ミルナシプラン 123±11 200±2 >10000 1.6

上記の表のように、デュロキセチンは5-HT再取り込み阻害とNA再取り込み阻害が約10対1と理想的なバランスであり、米国や欧州では慢性疼痛を含めて様々な症状に応用がされている。


  1. ^ 東原良恵, 今一義, 長田太郎, 渡辺純夫, 北條麻理子, 永原章仁, 廣田喬司, 里村恵美, 赤澤陽一, 野村収, 上山浩也, 稲見義宏「消化器症状を主訴に発症した仮面うつ病の1例」『消化器心身医学』第21巻第1号、消化器心身医学研究会、2014年、20-22頁、doi:10.11415/jpdd.21.20ISSN 1340-8844NAID 13000468698120222-02-08閲覧 
  2. ^ 機能性ディスペプシア外来 - 機能性ディスペプシア(機能性胃腸症)とは - 原眞一”. 2021年12月8日閲覧。
  3. ^ 医療用薬10製品に新効能などの追加承認”. ミクス (2015年5月27日). 2015年5月28日閲覧。
  4. ^ 変形性関節症に伴う疼痛に対する適応追加の追加の承認取得について”. 2016年12月19日閲覧。
  5. ^ “Comparative affinity of duloxetine and venlafaxine for serotonin and norepinephrine transporters in vitro and in vivo, human serotonin receptor subtypes, and other neuronal receptors”. Neuropsychopharmacology 25 (6): 871–80. (December 2001). doi:10.1016/S0893-133X(01)00298-6. PMID 11750180. 
  6. ^ Li, Jie Jack (2015). Top Drugs: Their History, Pharmacology, and Syntheses. Oxford University Press. ISBN 978-0-19-936258-5. https://books.google.com/books?id=qOHXCQAAQBAJ&q=duloxetine+0.7+ki&pg=PA127 
  7. ^ Stephen M. Stahl、仙波純一、松浦雅人、中山和彦、宮田久嗣(訳)、2010、『精神薬理学エセンシャルズ -神経科学的基礎と応用-』3、  ISBN 978-4895926409 pp. p. 570
  8. ^ a b 「多剤併用中の難治性うつ病患者にduloxetineを追加投与して意識消失発作がみられた2症例」『臨床精神薬理』第14巻第1号、2011年1月、pp. 103-106、ISSN 1343-3474 (要購読契約)
  9. ^ Pisani F, Oteri G, Costa C, Di Raimondo G, Di Perri R (2002). “Effects of psychotropic drugs on seizure threshold.”. Drug Saf. 25 (2): pp. 91-110. PMID 11888352. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11888352. 
  10. ^ デイヴィッド・ヒーリー 著、田島治監訳、中里京子 訳『ファルマゲドン』みすず書房、2015年、88頁。ISBN 978-4-622-07907-1  Pharmageddon, 2012.
  11. ^ デュロキセチンカプセル20mg「DSEP」/デュロキセチンカプセル30mg「DSEP」 添付文書
  12. ^ 川崎博己, 山本隆一, 占部正信, 貫周子, 田崎博俊, 高崎浩一朗「新規抗うつ薬Milnacipran hydrochloride(TN-912)の脳波および循環器に対する作用」『日本薬理学雑誌』第98巻第5号、日本薬理学会、1991年、345-355頁、doi:10.1254/fpj.98.5_345ISSN 0015-5691NAID 130000758808 


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