スクミリンゴガイ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/20 15:55 UTC 版)
スクミリンゴガイ | |||||||||||||||||||||||||||
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分類 | |||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||
Pomacea canaliculata Lamarck, 1819 | |||||||||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||||||||
スクミリンゴガイ ジャンボタニシ | |||||||||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||||||||
channeled apple snail golden apple snail |
南アメリカ原産[2]。日本では食用を目的とした養殖用に台湾から持ち込まれたのが野生化した外来種であり、イネを食害することから、防除対象になっている[1]。
形態
淡水巻貝としては極めて大型である。オスは殻高25 mm、メスは30 mmが性成熟した個体で、成体は殻高50 - 80 mmに達する。卵召は多数が固まった卵塊を形成し、陸上の乾燥に耐えうる固い殻を有し、鮮やかなピンク色で目立ちやすい。
生態
自然分布の野生個体は、南アメリカのラプラタ川流域に生息するが[3]、原産地外の世界各地に著しく移入させられて定着している。
巻貝としては歩行速度が非常に速い。雑食性で、植物質、動物質を問わず、水中の有機物を幅広く摂食するが[4]、タニシ類と異なり、濾過摂食は行わないと考えられている。
水面から離れた植物体表面や岸辺の壁面に産卵し、直後は1個1個の卵を結着している粘液が柔らかいが、やがて硬質化して付着箇所から容易には剥がれない状態となる。卵塊は鮮やかな鮮紅の警戒色を呈し、卵内部は神経毒のPcPV2が満たされて、ヒトが食した場合は苦味もあり[4]、この毒と色彩によって、卵はアリ以外の全ての捕食者から逃れている[5]。
孵化は酸素を要すため、水中では孵化できず、水中へ没すると卵塊のまま駆除が可能である。日本の夏季の気候で2週間程度で孵化し、幼体は水温と栄養状態に恵まれれば、2か月で性成熟する。
鰓呼吸だけでなく、肺様器官で空気中の酸素を利用して乾燥に強く、乾期などに水中から離れても容易には死亡しない。耐寒性はそれほど高くなく[4]、日本で越冬に成功する個体の大半は、殻高1 - 3センチメートルの幼体である[4]。寿命は環境により変化するが、日本の野外で2年以内、飼育下では4年程度と見られ、天敵は魚類、鳥類、捕食性水生昆虫、大型甲殻類、カメである[4]。
日本では西日本で多く観察される。2020年6月末時点で31府県で生息が確認されている[1]。
分類
「ジャンボタニシ」の呼称があり、かつてはタニシと同じタニシ上科 Viviparoidea に分類されていた[3]。現在の分類では別上科で、暫定的に同目とされているが新生腹足類内で近縁な関係にはなく[6]、非常に疎遠である。
日本にはリンゴガイ属 Pomacea のうちスクミリンゴガイとラプラタリンゴガイ Pomacea insularum が生息するが、これらは形態では区別が困難である。アジアに主に生息するのはスクミリンゴガイであるが、ラプラタリンゴガイ、Pomacea diffusa、Pomacea scalaris も発見されている[3]。
アジアに移入された種はかつてラプラタリンゴガイとされてきたが、1986年に日本産の種はスクミリンゴガイと同定された[3]。遺伝子解析ではいくつかの県でラプラタリンゴガイも発見されている[7]。
- ^ a b c 「ジャンボタニシが大量発生 農水省が協議会設置」『日本農業新聞』2020年7月24日2面
- ^ “大阪市立自然史博物館第50回特別展「知るからはじめる外来生物 〜未来へつなぐ地域の自然〜」”. 大阪市立自然史博物館. 2020年8月7日閲覧。
- ^ a b c d “九州沖縄農業研究センター:スクミリンゴガイ 分類”. 農研機構. 2020年2月20日閲覧。
- ^ a b c d e “九州沖縄農業研究センター:スクミリンゴガイ 生態”. 農研機構. 2020年2月20日閲覧。
- ^ Erik Stokstad (2013年6月3日). “ScienceShot: Invasive Snails Protect Their Young With Odd Poison” (英語). American Association for the Advancement of Science
- ^ Ponder, W.F.; et al. (2008), “Caenogastropoda”, in Ponder, W.F.; Lindberg, D.R., Phylogeny and evolution of the Mollusca, Berkeley: University of California Press
- ^ “国内にはラプラタリンゴガイとスクミリンゴガイが生息する”. 農研機構. 2013年6月25日閲覧。
- ^ “スクミリンゴガイ”. 侵入生物データベース. 2016年11月9日閲覧。
- ^ a b c “九州沖縄農業研究センター:スクミリンゴガイ 分布と被害”. 2020年2月20日閲覧。
- ^ おおのかずおき(1986), p37.
- ^ 月刊国民生活(1997), p56.
- ^ “スクミリンゴガイ(Pomacea canaliculata)に関する情報”. 要注意外来生物リスト:無脊椎動物(詳細)[外来生物法]. 2016年3月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年2月4日閲覧。
- ^ 【アグリフォーカス】ジャンボタニシ 冬こそ防除本番/耕起や水路 泥上げ季節またがせず『日本農業新聞』2021年11月30日18面
- ^ 牧山正男, 伊東太一「スクミリンゴガイ被害の実態と水田浅水管理による抑制効果」『農業土木学会誌』第73巻第9号、農業農村工学会、2005年、793-796,a1、doi:10.11408/jjsidre1965.73.9_793、ISSN 0369-5123、NAID 130004101108。
- ^ “九州沖縄農業研究センター:水稲移植栽培でのスクミリンゴガイ対策”. 農研機構. 2020年7月27日閲覧。
- ^ “根におけるケイ素吸収・輸送モデルの開発とイネがケイ素を多く吸収できるメカニズムの解明(農業環境技術研究所)”. www.naro.affrc.go.jp. 2022年6月10日閲覧。
- ^ 日本生態学会, 和田節『外来種ハンドブック』地人書館〈スクミリンゴガイ~ 人のいとなみに翻弄される水田の外来種〉、2002年、171頁。ISBN 9784805207062。 NCID BA58709946。
- ^ “スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)の被害防止対策について”. 農林水産省. 2024年3月12日閲覧。
- ^ “ジャンボタニシの放し飼い、除草目的でも「やめて!」と農水省。「一度侵入・まん延すると根絶は困難」”. ハフポスト (2024年3月7日). 2024年3月13日閲覧。
- ^ “鹿嶋市、ジャンボタニシの除去を呼びかけ”. 国立環境研究所 (2021年5月18日). 2024年3月12日閲覧。
- ^ a b “ジャンボタニシ放飼「止めて!」農水省が警鐘 X論争で...飛び火のJA福岡市も訴え「推奨している事実一切ない」”. J-CASTニュース (2024年3月7日). 2024年3月12日閲覧。
- ^ a b c d “【参政党研究】 党員の「ジャンボタニシ 農法」大炎上で 見えた 危うい 農本主義信仰”. 示現舎 (2024年3月9日). 2024年3月12日閲覧。
- ^ “ジャンボタニシで除草? 投稿が炎上 農水省が注意喚起 米農家「信じられない」”. テレビ朝日 (2024年3月14日). 2024年3月14日閲覧。
- ^ “ジャンボタニシ撒いてたご本人… このタイミングで参政党公認市議選候補とは”. SITO.(シト) - X (2024年3月11日). 2024年3月13日閲覧。
- ^ a b “281回 ジャンボタニシ農法と参政党”. コアマガジン(ロマン優光) (2024年3月8日). 2024年3月12日閲覧。
- ^ “岐路に立つ参政党。ジャンボタニシが追い討ち?<ドラネ考>”. 黒猫ドラネコ【トンデモ観察記】 (2024年3月8日). 2024年3月12日閲覧。
- ^ a b c “「気持ち悪いんです、これ」 農水相、ジャンボタニシの放し飼いで注意喚起 イネに被害”. 産経新聞 (2024年3月12日). 2024年3月13日閲覧。
- ^ “【 #ジャンボタニシ 放飼は止めてください!】”. 農林水産省 (2024年3月6日). 2024年3月12日閲覧。
- ^ “坂本農林水産大臣記者会見概要”. 農林水産省 (2024年3月12日). 2024年3月13日閲覧。
- ^ “ジャンボタニシ除草”. JA福岡市. 2024年4月20日閲覧。
- ^ Setalaphruk, Chantita; Price, Lisa Leimar (2007-10-15). “Children's traditional ecological knowledge of wild food resources: a case study in a rural village in Northeast Thailand”. Journal of Ethnobiology and Ethnomedicine 3: 33. doi:10.1186/1746-4269-3-33. ISSN 1746-4269. PMC 2100045. PMID 17937791 .
- ^ “田螺塞肉的做法_菜谱_香哈网”. m.xiangha.com. 2022年4月24日閲覧。
- ^ “ジャンボタニシ食材に 食感「エスカルゴのよう」佐倉の伊料理店 プレゼンテ・スギ”. 千葉日報. 2021年10月18日閲覧。
- ^ イッチ (2019年8月16日). “田んぼのジャンボタニシについて”. icchinosora.com. 2021年10月3日閲覧。
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- ^ “外勞食用福壽螺引發廣東住血線蟲感染,疾管署呼籲食材應澈底洗淨後熟食”. 衛生福利部疾病管控署. 2018年3月9日閲覧。
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- ^ “ジャンボタニシ退治にスッポン活躍”. オリジナルの2006年8月6日時点におけるアーカイブ。 2007年10月20日閲覧。
- ^ 国本桂範, 西川学「野菜トラップによるスクミリンゴガイの捕獲効率の向上」『農作業研究』第43巻第2号、日本農作業学会、2008年6月、75-82頁、doi:10.4035/jsfwr.43.75、ISSN 03891763、NAID 10029876076、2021年11月29日閲覧。
- ^ “野菜に対するスクミリンゴガイの選好性と摂餌行動(収量予測・情報処理・環境)”. 日本作物学会紀事. 2021年11月1日閲覧。
- ^ a b c 「ジャンボタニシ対策/捕獲:苗箱で100匹超 水稲:茎と葉を固く」『日本農業新聞』2020年7月31日7面
- ^ 「ジャンボタニシお湯攻め静岡県高温洗浄機で駆除実証」『日本農業新聞』2021年12月2日10面
- ^ a b “「ジャンボタニシ ごめんね」 中学生が改良を重ねた「罠」:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル (2022年5月25日). 2022年10月14日閲覧。
- ^ “ジャンボタニシ 捕獲にビリビリ有効 おびき寄せて超音波で駆除”. 『日本農業新聞』. (2019年5月26日). オリジナルの2019年5月31日時点におけるアーカイブ。 2019年5月26日閲覧。
- ^ a b 「ジャンボタニシの誘引餌にドッグフード グッドな駆除」『日本農業新聞』2021年7月10日13面
- ^ “厄介者ジャンボタニシ鶏の餌に ひなの成長、好み問題なし 愛媛県(日本農業新聞)”. Yahoo!ニュース. 2024年3月7日閲覧。
- 1 スクミリンゴガイとは
- 2 スクミリンゴガイの概要
- 3 人間との関わり
- 4 参考文献
- 5 外部リンク
固有名詞の分類
巻貝 |
ショウジョウコオロギ ウミニナ スクミリンゴガイ フトヘナタリ ヤマキセルガイモドキ |
食用貝 |
イボウミニナ ウミニナ スクミリンゴガイ バテイラ マガキガイ |
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