イノセンス スタッフ

イノセンス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/24 15:33 UTC 版)

スタッフ

作品解説

前作『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』の草薙素子少佐の代わりにバトーがメインキャラクターをつとめる。ただし、九課のチーフ役はトグサが継いでいる。

本編のストーリーのベースは、漫画版『攻殻機動隊』の第6話「ROBOT RONDO」。

作品世界

本作品は士郎正宗の原作における『攻殻機動隊1.5 HUMAN-ERROR PROCESSER』『攻殻機動隊2 MANMACHINE INTERFACE』のように、前作で消息を絶った素子が再び姿を表し、主役として大活躍する作品にはならなかった。押井によれば、終わった後の今の目で見ればそのような展開でも良かったかもしれないと思えるが、当時は自然と本作品で選択した方向性以外に考えられなかったと語っている。また、本作品で直接は描かれなかった「その後の素子」に関しては、テーマとして容を変えて押井の次回作以降で語られるだろうとしている(必ずしも続編としての『攻殻3』を製作するという意味ではない)。

製作

作品名は当初『攻殻機動隊2』だったが、制作協力したスタジオジブリプロデューサー鈴木敏夫の提案により『イノセンス』となった。主題歌として「Follow Me」を提案したのも鈴木である[5]。押井自身も「彼(鈴木)がやったのは2つ。『イノセンス』というタイトルをつけたことと、主題歌」と発言している[6]。タイトルのロゴ・デザインも鈴木の手によるもの。

製作委員会

本格的に企画が動いたのは2000年春[7]。まず取り組んだ作業は、ハリウッドの会社と直接対等に組んで、I.Gが主導権を握って交渉を進めるために、前作の権利を持つ講談社バンダイビジュアルMANGA ENTERTAINMENTの3社にスポンサーを外れてもらう交渉を半年掛かりで行った[8]

2001年2月から、本作の決定稿を持った石川と押井の2人で20世紀フォックス映画ワーナー・ブラザースドリームワークスに「やるか、やらないか」「制作スケジュールはこうで、条件はこうだ」と広告代理店を介さずに直接売り込みに走った[9]

結果的にドリームワークスと契約したものの、その後も契約面で自分達に厳しい条件を突き付けてくるため、石川は妥協しないで「制作費はこの位かかりますから、高く出して下さい」「投資家は参加させないでください」「期限付きのアジアを除く配給権とビデオ販売権を売ります」と粘った。その結果前作の4倍の制作費を確保することができ、「脚本には口出ししない」という確約も勝ち取った。その代わり、押井に支払われる監督料も当初の半分になった[10]。ただし、アジアでのビデオ販売権はウォルト・ディズニー・ジャパンが持っていたため[11]、当然ドリームワークスが抗議したが石川は「アジアのことには口を出さない約束だろう」と念を押した[12]

鈴木敏夫は、(スタジオジブリが)製作協力を引き受けるにあたって、「正直迷いました。でも宮崎駿監督が背中を押してくれた。実際にキャンペーンが始まると、「ハウルの動く城のことを全然やっていない」って怒っていたけど[13]」と話す。

アメリカのメジャー映画会社は、『イノセンス』制作にあたって押井との交渉の席で、大衆受けを狙わない姿勢や、話を聞くだけではにわかに理解できない作品内容について難色を示した。それでも説得のため熱弁を振るう押井に、幹部全員が退いてしまい資金捻出を渋ったという。しかし、前作『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』がアメリカでヒットしていたこともあり、一定の興行収入を得られるとみた映画会社は、『GHOST IN THE SHELL 2』と明記することを条件として最終的に契約を結んだ。

プロモーション

原作および前作のタイトルでもある「攻殻機動隊」シリーズとは切っても切り離せない関係にあるが、鈴木の「『攻殻機動隊2』じゃ売れないよ」「前作を見た12万人のお客様はいらない」と主張して、押井を説得して「イノセンス」として、「攻殻機動隊」は副題にすら入らなかった。国内展開上は『攻殻機動隊』シリーズの新作であることは意図して強調されず、ほぼ独立したオリジナル作品としてプロモーションがなされた[14][注 6]

映画公開に先立ち、東京都現代美術館で、押井監修の「球体関節人形展」が開かれ、キムのモデルとなった四谷シモン作品などが展示された[15]

鈴木の主導によってスポットCMはもちろんのこと、宅配ピザの箱・カラオケの歌の本まで宣伝を仕掛け、配給元の東宝は300スクリーンを確保した[16]

脚本

作中には、以下に示すように多数の箴言の引用が登場する。

これについて押井守は、Yahoo!ブックスが2004年に行ったインタビューの中で、「ダイアログをドラマに従属させるのではなく、映画のディテールの一部にしたかった」のが動機であるとし、「言葉それ自体をドラマのディテールにしたかった。ちょっとした人物が吐くセリフも何物かであってほしい」「可能ならば100%引用で成立させたかった」[17]「これまでは引用した言葉に自分の解釈を加えていたが、それは言葉を劣化させるだけ。引用は飽くまでも引用として、正確に伝えたい」[18]と語っている。

釈迦 『法句経 - 23章330節(釈迦の言行録として残されたもの)』
孤独に歩め。悪をなさず、求めるところは少なく。林の中の象のように。
月菴宗光 『月庵和尚法語』
生死の去来するは棚頭の傀儡たり一線断ゆる時落落磊磊。
斎藤緑雨
鏡は悟りの具ならず、迷いの具なり。『霏々刺々』
鳥は高く天上に蔵れ、魚は深く水中に潜む。『霏々刺々』
鳥の血に悲しめど、魚の血に悲しまず。聲ある者は幸福也。『半文銭』
本月本日を以て目出度死去仕候間此段広告仕候也。『萬朝報(緑雨斎藤賢の名義で残された死亡広告)』
信義に二種あり、秘密を守ると、正直を守ると也。両立すべき事にあらず。『長者短者』
秘密なきは誠なし。『長者短者(の中の一篇の冒頭を改変したもの)』
人の上に立つを得ず、人の下に就くを得ず。路辺に倒るるに適す、ってやつで。『大底小底』
尾崎紅葉 『徳田秋声の原稿についての添え書き』
柿も青いうちはカラスも突つき申さず候。
中村苑子 『俳句』
春の日やあの世この世と馬車を駆り。
高尾太夫 (二代目) 『恋文(として伊達綱宗公へ宛てたもの)』
忘れねばこそ思い出さず候。
孔子 『論語(孔子の言行録として残されたもの)』
寝ぬるに尸せず。居るに容づくらず。
未だ生を知らず。焉んぞ死を知らんや。
理非無きときは鼓を鳴らし攻めて可なり。
プラトン 『名言(プラトンの言葉としてプルタルコスが著書にて残したもの)』
神は永遠に幾何学する。
ダビデ 『旧約聖書 - 詩篇139篇17,18節(ダビデが神様に宛てた信仰告白)』
その思念の数はいかに多きかな。我これを数えんとすれどもその数は沙よりも多し。
ジョン・ミルトン 『失楽園
彼ら秋の葉のごとく群がり落ち、狂乱した混沌は吼えたけり。
作者なし 『西洋の諺』
ロバが旅にでたところで馬になって帰ってくるわけではない。
ラ・ロシュフコー 『考察あるいは教訓的格言・箴言』
多くは覚悟でなく愚鈍と慣れでこれに耐える。
ニコライ・ゴーゴリ 『検察官
自分の面が曲がっているのに鏡を責めてなんになる。
マックス・ヴェーバー 『理解社会学のカテゴリー』
シーザーを理解するためにシーザーである必要はない。
ロマン・ロラン 『ジャン・クリストフ
人は概ね自分で思うほどには幸福でも不幸でもない。肝心なのは望んだり生きたりすることに飽きないことだ。
リチャード・ドーキンス 『延長された表現型―自然淘汰の単位としての遺伝子』
個体が創りあげたものもまた、その個体同様に遺伝子の表現型。
ジュリアン・オフレ・ド・ラ・メトリー 『人間機械論』
人体は自らゼンマイを巻く機械であり、永久運動の生きた見本である。

映像手法

押井守は『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』の際に既にアニメ映画の方法論は決したとして、アニメをこれ以上作ろうとは考えていなかったが、『Avalon』でアニメの方法論を実写に取り込み、実写の方法論をアニメに持ち込んでこの映画を制作しようと考えた。即ち、3Dモデリングされた空間カメラを持ち込み、それを切り出して(ロケーション・ハンティング)映像を制作しようとした。

だが、3D担当者はそれは不可能であると言い、テスト段階のコンビニエンスストアのシーンにおいて、想像以上のデータ量の前にその目論見は崩れ去った。現に公開されたものでもこのシーンは分割してレンダリングしたものを後に合成するという方法でレンダリング時間を短縮している。本編映像、特に中盤の大祭のシーンは、カメラマップと呼ばれる手法を利用した映像となっている。

また、アニメはキャラクターをセルで描くため、画面をセル画が占拠すると画面内の情報量が失われがちだが、江面久を筆頭とするエフェクトチームがAfterEffectsなどを駆使してそれに対処し、処理速度が停滞すればPower MacG5の大量導入でこれに対処した。

以上の紆余曲折もあり、アニメ映画では初めて、全編にわたってDomino[19]による映像処理が施されたが、それによってセル画が浮いて見えるという評価もあった。これについて押井守は認識していたが、CGによって描きこまれたディテールを損なうフィッティングをあえて行わなかったことを後のインタビューで述べている。ちなみに、IMAXシアターで公開された際にはオープニングのガイノイドの眼球に表示される文字列など細部を見ることができた。

前作のコンピュータ画面が「緑」で統一されていたのに対し、今作では「橙」で統一されていたり、前作の舞台が「夏」に対して今作は「冬」と、映像に差別化が見られる。なお、季節の違いによって差別化を図る手法は、押井が以前に監督した『機動警察パトレイバー the Movie』(「夏」)と『機動警察パトレイバー 2 the Movie』(「冬」)でも採用されている。

音響手法

本作以前より劇伴作曲家として押井作品に関わってきていた川井憲次による、本作の第2のメインテーマともいえる「傀儡謡(くぐつうた)」のコーラスは75人の民謡歌手(西田和枝社中)を集め(前作では3人)、更にクライマックスに使用された傀儡謡ではコーラスを4回収録し、それを同時に流す事によって音に厚みを持たせた。和太鼓に茂戸藤浩司が起用された[20]

劇中で使用されたオルゴールの曲は、予めオルゴールから機械録音しておいたものを、大谷石採掘場跡の地下空間で再生し、再度録音したものが使われた。

また音響効果編集は『Avalon』同様スカイウォーカー・サウンドで行われ、迫力の音響世界が創造された。サウンドデザインはアカデミー音響編集賞受賞者のランディ・トムが担当した。この関与は「プリミックス」であり、音楽やセリフ素材を含む整音は日本国内で行われている。

同社の音響製作の可能性に感銘を受けた押井は、『Avalon』で組んだサウンドデザイナーで『ローレライ』や『少林少女』も手がけたスカイウォーカー・サウンドのトム・マイヤーズに『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』のサウンドデザイン、2008年の『攻殻機動隊2.0』の音響リニューアルを委ねている。








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