立体規則性とは? わかりやすく解説

立体規則性

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/11/05 12:03 UTC 版)

シンジオタクチックなポリプロピレン球棒モデル

立体規則性またはタクティシティー英語: Tacticity)とは高分子化合物において隣接するキラル中心の相対的な立体構造を指す[1]。タクティシティーという名称はギリシャ語で配列することを表すτακτικόςに由来している。 立体規則性はポリマーの物理的な特性に影響を与える。高分子構造の規則性は堅固な結晶の長距離秩序や柔軟な非晶質短距離秩序に影響する。正確なポリマーの立体規則性を知ることにより、ポリマーの融点やある溶媒への溶解性、機械的性質などを知ることができる。

また、タクチック高分子英語: tactic macromolecule)は配置繰返し単位のすべてが同じである規則性高分子を指す[2] 。タクティシティーは例えば-H2C-CH(R)-のように表されるビニルポリマーにみられる。ビニルポリマーの繰り返し単位は高分子骨格において置換基Rがある原子の片側についているとき次の繰り返し単位でも同じ側に置換基Rがあるが、もう片側の置換基は次の繰り返し単位では炭素原子に対するその置換基の配置は同じであるとは限らない。主鎖を形作る全ての炭素原子が四面体形幾何構造を取る炭化水素分子をナッタ投影式で表すと、ジグザグ形の主鎖が紙面にあり置換基は紙の手前側或いは奥側にあるものとなる。モノタクチック高分子は繰り返し単位ごとに1つのキラル中心原子を持ち、n-タクチック高分子は繰り返し単位ごとにn個のキラル中心原子を持つ。

タクチック高分子の分類

立体規則性に基づいて高分子を分類すると以下の3種類に大別される[3]

イソタクチック高分子

イソタクチックポリマー
イソタクチックなポリプロピレン

イソタクチック高分子はすべての置換基が炭素骨格の同じ側にあるため、ただ1種の配置基本単位からなっている[2]。イソタクチックポリマーは一般的に半結晶性で螺旋構造をしている。例えば、チーグラー・ナッタ触媒反応により合成されたポリプロピレンはイソタクチックポリマーである[4]。また、ヘミイソタクチック高分子は繰り返し単位ごとの置換基の種類が異なる高分子をいう。

シンジオタクチック高分子

シンジオタクチックポリマー
シンジオタクチックなポリプロピレン

シンジオタクチック高分子は互いに鏡像異性の関係にある配置基本単位の交互配列から成る[2]メタロセン重合触媒英語版により合成されるポリスチレンガタパーチャ樹脂はシンジオタクチックポリマーである[5]

アタクチック高分子

アタクチック高分子

アタクチック高分子は配置基本単位の配列が無秩序である高分子をいう[2]。すなわち、ある配置単位の置換基の向きは隣り合う配置単位に対して同じものにも異なるものにもなり得る。その無秩序さのため、アタクチック高分子は一般的に非晶質である。NMR法のような分光測定法を用いると、高分子中の各トライアドの百分率を正確に求めることができる[6]ポリ塩化ビニルのようなフリーラジカル重合で合成される高分子は一般的にアタクチックである。ポリスチレンは一般的にアタクチックであるが、合成に特殊な触媒を用いることによりシンジオタクチックなポリスチレンを合成できる。アタクチックなポリスチレンは不規則な構造により鎖を形成しにくくなるためガラスの形質を示すが、シンジオタクチックなポリスチレンは半結晶性の形質を示す。

脚注

  1. ^ Introduction to polymers R.J. Young ISBN 0-412-22170-5
  2. ^ a b c d 国際純正応用化学連合(IUPAC)高分子命名法委員会による高分子科学の基本的術語の用語集(日本語訳)”. 公益社団法人 高分子学会. 2019年9月1日閲覧。
  3. ^ M. D. Lechner, K. Gehrke und E. H. Nordmeier: Makromolekulare Chemie, 4. Auflage, Birkhäuser Verlag, 2010, S. 25–29, ISBN 978-3-7643-8890-4.
  4. ^ Stevens, P. S. Polymer Chemistry: An Introduction, 3rd ed.; Oxford Press: New York, 1999; pp 234-235
  5. ^ Brandrup, Immergut, Grulke (Editors), Polymer Handbook 4th edition, Wiley-Interscience, New York, 1999. VI/11
  6. ^ Noble, Benjamin Brock (August 2016). Towards Stereocontrol in Radical Polymerization (PDF) (Thesis). Australian National University. 2019年7月13日閲覧

立体規則性

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/21 10:14 UTC 版)

ポリプロピレン」の記事における「立体規則性」の解説

ポリプロピレンの立体規則性は、ポリプロピレン構造と物性理解する上で非常に重要な概念である。隣り合うメチル基(右の図中のCH3)の相対的配置が、最終ポリマー結晶形成強く影響与える。なぜなら、各メチル基空間配座決めるからである。 立体規則性の違いにより、アイソタクチック(イソタクチック)、シンジオタクチック、アタクチックの立体規則性(タクティシティー)の異なったポリプロピレン合成される。 アイソタクチックとは、不斉炭素が同じ絶対配置を持つような構造である。具体的には、プロピレン側鎖メチル基全て同じ方向向いていて、かつ、プロピレンが頭-尾結合している構造である。一方、シンジオタクチックとは、不斉炭素絶対配置交互に並ぶ構造である。絶対配置ランダムな構造をアタクチックと言う。なお、アタクチックポリマーは通常結晶化しない。 大部分工業的に入手可能なポリプロピレンは、結晶性のアイソタクチックポリマーを主成分とし、0.5%から2%程度のアタクチックポリマーを含んでいる。アタクチックポリマーは、キシレンなどの有機溶媒可溶なので、この性質用いて市販のポリプロピンから分離することが可能である。 タクティシティーは、13C-NMR(C13 Nuclear Magnetic Resonance: 炭素13核磁気共鳴)を用いてメチル基シン配置隣り合うメチル基が同側)と、トランス配置隣り合うメチル基反対側)の分率を測定することにより得られる

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