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IN TERRA PAX

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/02/24 02:31 UTC 版)

混声合唱組曲『IN TERRA PAX - 地に平和を』(イン テッラ パックス - ちにへいわを)は、荻久保和明1990年に作曲した混声合唱組曲。また、その終曲。後に女声合唱男声合唱にも編曲された。作詞は鶴見正夫。

タイトルは、ミサ曲Gloria」の一文に記されている「Et in terra pax hominibus bonae voluntatis.ラテン語:そして、地の善き人々に平和を)」による。

概説

ベトナム戦争を受けて鶴見が書いた詩「太郎は知った」を、荻久保が1985年、混声3部合唱曲として作曲し、同年の『教育音楽』7月号に発表。この曲を単品で埋もれさせるのはもったいないという作曲者の意向で「この曲をベースにした連作合唱曲を作ろう」という話が生まれ、音楽之友社を通じて、戦争と平和をテーマにした詩を鶴見に書き下ろしてもらった[1]

鶴見は作詞にあたって、「こうしたうたはシュプレヒコールのようになりがちだ。私は努めてそれを避け、少年少女からおとなまで、誰もがうたえることをねがって、できるだけ平易なコトバで書いた。」と語っている[2]

1988年には、「OH MY SOLDIER」が、翌年には「IN TERRA PAX」、「花をさがす少女」がそれぞれ混声3部合唱曲として作曲され、「ほうけた母の子守歌」は無伴奏の混声4部合唱として『教育音楽』1989年11月号に掲載された。1990年、混声3部の曲を4部にリライトした上で、それまでに発表した5曲の連作を組曲として構成。コール・フロイントの定期演奏会(杉並公会堂)で初演された。なお、女声版は新座少年少女合唱団、男声版は大阪府立淀川工業高等学校グリークラブからの委嘱である。

男声版では「コーラスのパートを美しく聞かせるため[3]」(= 男声合唱の特性をよりよく活かすため)という理由から、主旋律の一部や、拍子・テンポ指定や、ピアノパートの大半などに、組曲全体にわたり編曲の枠にとどまらない大胆な改変がなされている。「ほうけた母の子守歌」に至っては、エンディングが他のバージョンより2小節分短く、終止和音も変更されている。

曲目

  1. 知った
    ハ短調。組曲化にあたり「太郎は知った」を改題。Adagioのレチタンドから始まり、激しくドラマチックな展開を持つ。
  2. OH MY SOLDIER
    ト短調。「戦争で散った世界中の無数の若者への命へのレクイエム」と鶴見は述べる。
  3. 花をさがす少女
    イ短調。冒頭のピアノは不吉な少女の運命を暗示する動機[4]。少女は美しい花を探し彷徨うが、突如として音楽は転じ、戦車が彼女に迫る。
  4. ほうけた母の子守歌
    ドリア調。この曲のみ無伴奏。戦争に対する、消え去ることのできない怒りと怨念。男声版は平成7年度全日本合唱コンクール課題曲。
  5. IN TERRA PAX 地に平和を
    変ロ長調。鶴見の詩の原題は「この地上」であったが、作曲に際し「ラテン語がピンと思い浮かび」「この曲の頭は「インテーラーパーックス」でなければならない」[5]として改めた。「この地球に生きるもの、すべての命のための「IN TERRA PAX」-“地に平和を”である」と鶴見は述べる。
    実際の演奏に際して荻久保は「8分の6拍子は2つ振りでなければならない」「うまく2つ振りできないなら、この曲の指揮はすべきでない」[5]と注文を付けている。

エピソード

  • 荻久保作品の中では、初期の「季節へのまなざし」とともに、よく歌われるものであり、小学生・中学生から一般の合唱団まで幅広い年齢層に取り上げられている。1990年代にはコンクールの自由曲としてブームになり、一世を風靡した[6]。男声版出版譜の前書きで本人が記しているところによると、これらの曲のあまりの人気ゆえに自分の本来の作風が理解されていないと嘆いていた時期もあったという[3]
  • この組曲を荻久保に書かせたのは、平和への祈りばかりではない。ある時、北海道から上京した荻久保ファンの大学生と会った際、「最近の荻久保和明の作品はマニアックじゃないか、旋律的美しさに欠けるんじゃないか」と指摘されたという(「季節へのまなざし」は、初演指揮者の岩城宏之に美しい曲として絶賛されたが、その後の荻久保は「縄文」シリーズ、「しゅうりりえんえん」、「レクイエム」など、美しさよりも激烈さを優先した作風へと変化した)。この言葉がなければ「IN TERRA PAX」は生まれていなかったと言うほどに、荻久保にとっては印象的であったらしい。そこで、「歌も旋律、ピアノも旋律、リズムも旋律、すべてが旋律でできたような曲」を目指して書いたのだと語っている[7][4]
  • 混声版出版譜の前書きで、荻久保がこの組曲の作曲の生みの苦しみを延々とつづっているが、実際にはフィクションである(彼の母が心配して電話をかけたというエピソードがある)。この前書きは連用形を多用したスタイルで書かれているが、これは筒井康隆に影響されたとのこと。

楽譜

すべて音楽之友社より出版されている。

参考文献

  • 「新・日本の作曲家シリーズ4 荻久保和明」(『ハーモニー』No.111、全日本合唱連盟、2000年)
  • 「今こそ歌い継ぎたい名曲26 IN TERRA PAX 地に平和を」(『ハーモニー』No.174、全日本合唱連盟、2015年)
  • 「うまくなろう!合唱 作曲者からのアドバイス1 IN TERRA PAX」(『教育音楽』2006年6月号、音楽之友社)
  • 「うまくなろう!合唱 作曲者からのアドバイス2 花をさがす少女」(『教育音楽』2006年7月号、音楽之友社)

脚注

  1. ^ 三大学女声合唱連盟(日本女子大学合唱団・共立女子大学合唱団・立教大学グリークラブ女声合唱団)第8回ジョイントコンサート 演奏会パンフレット、1993年4月29日、pp.13-14
  2. ^ 混声版出版譜の前書き
  3. ^ a b 男声版出版譜の前書き
  4. ^ a b 「うまくなろう!合唱2」p.57
  5. ^ a b 「うまくなろう!合唱1」p.57
  6. ^ 「今こそ歌い継ぎたい名曲26」
  7. ^ 「新・日本の作曲家シリーズ4」

関連項目


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