ECDISとは? わかりやすく解説

電子海図情報表示装置

(ECDIS から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/16 20:36 UTC 版)

独立行政法人海技教育機構が所有する練習船「はりうす」に搭載されたECDIS

電子海図情報表示装置(でんしかいずじょうほうひょうじそうち、: Electronic Chart Display and Information System, ECDIS; エクディス)とは、国際海事機関 (IMO) の基準に準拠した航海用の地理情報システム航海用ナビゲーション)装置。紙の海図に代わるものである。IMOは基準に適合しない類似のシステムを電子海図装置 (Electronic Chart Systems, ECS) と呼び明確に区別している[1]

概要

ECDISシステムは、航海用電子海図 (ENC) からの地理情報を画面に表示し、位置、方位、速度からの位置情報などの統合測位システムと、他の航海用センサーを介し得た各種情報を統合し画面上に情報表示を行い、ECDISに接続可能なセンサーには、レーダーナブテックス自動船舶識別装置 (AIS)、測深装置などがある。

ENCデータとGNSSによる自船位置情報、自船レーダー情報に基づいて、周辺海図、自船位置、自動航路保持、監視、航跡記録、自動船速制御、航路逸脱警報、変針点接近警報、避険線接近・侵入警報、安全等深線接近・侵入警報、気象情報提供、海象情報提供、航行警報情報提供、などの高度な航行支援機能を備えている。危険水域の警報機能とともに海図室への出入りに時間を割くことなく前方警戒に集中できることで航海の安全性が高められる[2]

近年、海事業界ではシステムの安全性、特にサイバー攻撃に対する対策について懸念している。

ECDISの軍用版は、WECDIS (Warship ECDIS) または、ECDIS-N (ECDIS-Naval) として知られる[3]

電子海図

ECDISシステムでは主に2種類の電子海図が用いられている[4]

航海用電子海図 (ENC; Electronic navigational chart)

ECDIS上に表示される各種情報
ENCは、ECDIS用海図データベースの要件に適合しており、内容、構造、形式が標準化されたベクター海図で、各国の政府機関や水路機関の権限によりECDIS用途で使用するため発行されたものとなり、日本では公式海図とも呼ばれ、ENCは国際水路機関 (IHO) の発布した「S-57」に記載されている規格に適合する仕様となっている[5]。ENCは、安全な航海に必要なすべての海図情報を含んでおり、紙海図に含まれる情報に加えて、補足情報を含むこともある。ENC海図を使用するシステムは、船舶の位置と移動に関連して差し迫った危険を警告するようにプログラムすることが可能である。また、ECDISシステムは、IMOの基準に従って認証された機器でなければならない。

ラスター海図 (RNC; Raster Navigational Chart)

RNCは、IHO「S-61」に準拠したラスターグラフィック海図となり、日本では非公式海図とも呼ばれ、紙海図をスキャナデジタル画像に変換して作成されたものである。IMO規則 Resolution MSC.86 (70) の中で、ENC海図がない場合にのみ、ECDIS装置がラスター海図表示システム (RCDS) モードで動作することを認めている[6]

規則

ECDISは、IHO規則「S-57」及び「S-52」で定義されており[5]、承認された航海用海図及び情報システムであり、1974年SOLAS条約の規則「V/19」で要求される従来の紙海図と同等とするものとして認証している[7]。ECDISの性能要件はIMOによって定義されており、試験規格は国際電気標準会議 (IEC) によって定められた国際規格である「IEC 61174」の下に開発がされている[8]

将来的にENCは「S-100」として知られる次世代型電子海図の国際規格となる「IHO Universal Hydrographic Data Model」に基づく製品仕様の一部になる予定である。なお、製品仕様番号S-101はENCに割り当てられている。次世代海図では潮汐天気図などを新たなレイヤーとして統合表示されるシステムとなる[9][10]

脚注

[脚注の使い方]
  1. ^ ENCs, ECDIS & S-100”. International Hydrographic Organization. 2015年2月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年7月13日閲覧。
  2. ^ 仲之薗郁夫 『海のパイロット物語』成山堂書店、2002年1月28日。ISBN 4-425-94651-0 
  3. ^ WECDIS Military Training – Home of the Naval ECDIS Community”. 2016年10月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年5月2日閲覧。
  4. ^ ECDIS(電子海図情報表示装置)”. 日本財団. 2022年5月2日閲覧。
  5. ^ a b IHO - Publications /OHI - Publications”. International Hydrographic Organization. 2010年7月13日閲覧。
  6. ^ Maritime Safety Committee – 70th session: 7-11 December 1998”. International Maritime Organization. 2012年8月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年9月1日閲覧。
  7. ^ Charts”. International Maritime Organization. 2007年9月1日閲覧。
  8. ^ Maritime navigation and radiocommunication equipment and systems – Electronic chart display and information system (ECDIS) – Operational and performance requirements, methods of testing and required test results”. International Electrotechnical Commission in the woeld. 2007年9月1日閲覧。
  9. ^ 次世代電子海図国際規格への対応 (PDF)”. 国土交通省. 2022年5月2日閲覧。
  10. ^ 川添優希「水路図誌の電子化と統合に関する研究 -IHO S-100の機能の利便性及び問題点-」『日本航海学会誌 NAVIGATION』第204巻、日本航海学会、2018年7月19日、 59頁、 doi:10.18949/jinnavi.204.0_59ISSN 2189-8073OCLC 1181788174

関連項目

外部リンク


ECDIS

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/01 19:23 UTC 版)

航海術」の記事における「ECDIS」の解説

ECDIS(Electric chart display and information system電子海図情報表示装置)はCD-ROM記録されENCElectric navigational chart航海用電子海図)のデータGPSによる自船位情報、自船レーダー情報基づいて周辺海図、自船位置、自動航路保持監視航跡記録自動船速制御航路逸脱警報変針接近警報、避険線接近侵入警報、安全等深線接近侵入警報気象情報提供、海象情報提供航行警報情報提供、などの高度な航行支援機能を備えている。危険水域警報機能とともに海図室への出入り時間を割くことなく前方警戒集中できることで航海安全性高められる従来手間かかった海図修正修正データCD-ROMセットするだけで済むようになった。CD-ROMとは別にICメモリカード収めたERCElectric reference chart電子参考図)も発行されるようになった

※この「ECDIS」の解説は、「航海術」の解説の一部です。
「ECDIS」を含む「航海術」の記事については、「航海術」の概要を参照ください。

ウィキペディア小見出し辞書の「ECDIS」の項目はプログラムで機械的に意味や本文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。 お問い合わせ


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「ECDIS」の関連用語

ECDISのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



ECDISのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの電子海図情報表示装置 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
ウィキペディアウィキペディア
Text is available under GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblio辞書に掲載されている「ウィキペディア小見出し辞書」の記事は、Wikipediaの航海術 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。

©2025 GRAS Group, Inc.RSS