飢餓の生化学
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/04 01:37 UTC 版)
成人では基礎代謝量は体重の25 - 30倍、すなわち、体重60kgの男性なら1500 - 1800キロカロリー程度である。 ヒトは日々の活動のエネルギー源として、肝臓にグリコーゲンを蓄えているが、これは、絶食後約1日ですべて血糖(グルコース)となり全身で使い果たされる。 グリコーゲンを使い果たした結果、血糖値が低下すると、肝臓中で脂肪酸の分解経路であるβ酸化回路が活性化され、肝臓中の脂肪がβ酸化を経てケトン体(β-ヒドロキシ酪酸、アセトン、アセト酢酸)に変化し血流中に流出する。ケトン体は、全身でグルコースに代わるエネルギー源として利用される。 したがって、栄養が欠乏するとまず肝臓や筋肉中のグリコーゲンが、次に肝脂肪がエネルギー源として使われる。飢餓状態が更に進むと、体脂肪や皮下脂肪など肝臓以外の脂肪が血流に乗って肝臓へと運ばれ、これもまた、肝臓でβ酸化されてケトン体に変わり、同様にエネルギー源となる。これにより、ヒトは、理論上は水分の補給さえあれば絶食状態で2 - 3ヶ月程度生存が可能であり、この限界を越えれば餓死に至る。 たとえば、仮に、体重70kg、体脂肪率20%とし、脂肪のカロリーを9kcal/g、絶食により運動強度が下がった結果として低下する基礎代謝量を1200kcal/日とすると、70 kg × 0.2(体脂肪率)× 9 kcal/g / 1200 kcal/日 = 105日、となり、この計算だと、ヒトは絶食後3ヶ月半ほど生存することができることになる。 ただし、これはあくまでエネルギーの計算上というだけで、実際には健康な状態を維持することは不可能に近い。その理由は、ヒトの体内ではタンパク質、核酸、無機塩類、その他様々な生理活性物質が緩やかに代謝回転しており、それらの新規合成のために、必須アミノ酸や必須脂肪酸、ミネラル類や、様々なビタミンなどを食物より摂取する必要があるからである。逆にこれらの摂取がない場合、筋肉などがアミノ酸に分解して、別のタンパク質の合成のためのアミノ酸源や糖の原料(糖新生)として使われることになる。
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