静力学および動力学
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/20 04:34 UTC 版)
「イブン・ハイサム」の記事における「静力学および動力学」の解説
現存はしないものの、イブン・ハイサムは静力学の書を著しており、11-12世紀のAl-Khazini(英語版)の 『釣り合いの書』("The Book of the Balance of Wisdom", Kitab mizan al-hikma)に内容の紹介がある。ただし、このレビューは、アブー・サフル・アル=クーヒーの理論とイブン・ハイサムの理論を一体のものとして紹介しており、両者の差異はこれからは明らかではない。 このAl-Khaziniの要約によれば、物体が地球の中心(当時においては宇宙の中心)に向かう傾向性である重さ(thiql)を、秤ではかることが出来て場所に依存せずに決まる量waznから区別した。この「重さ」は物体の場所に依存する。例えば、梃の支点においては「重さ」は無く、支点からの距離に比例して増加する(これは梃の原理と整合する)。これを地球の中心を梃の支点に見立てるアナロジーから、「重さ」は地球の中心からの距離に依存するとした。この理論では、地球の中心では「重さ」は無くなる。 また、彼の『光学の書』では、光の反射や屈折を投射体の運動との比喩で説明している。その際、球体と壁の衝突をやや細かく分析しているが、運動を壁に垂直な方向と水平な方向に分けて各々分析したあとに重ね合わせる議論の流れは、近代的な雰囲気が漂う。まず、壁に垂直な成分は、壁に直角に球体を落としたりぶつけた場合と同様の運動になり、衝突の前後で速さは不変で向きが反転する。壁に平行な成分は、何も妨げのない運動と同じで、直進を続ける。これらの合成として、球体の反発が説明れる。ただし、以上は球体の重量を無視した分析であるとし、実際には重さの効果で上記の進路からそれるとする。この分析をもって、近代力学の諸概念を先取りしていたかのような解説がされることもあるが、彼の議論は概ね中世的なインペトゥスの理論(英語版)の枠内で理解できるものである。 このように光の反射や屈折を投射体の運動とのアナロジーで説明する理論は、『光学の書』に影響を受けた欧州中世の光学研究家が熱心に取り組んだところであり、ルネ・デカルトやアイザック・ニュートンの反射や屈折の力学的な説明もそのような伝統の中で理解することができる。
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