鉄仮説とその証明
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/12/10 10:23 UTC 版)
ある海域で鉄の不足が植物プランクトンの増殖を制限しているという考え自体は1930年代から存在した。これは、安定な3価の鉄イオンの海水への溶解度がきわめて低く、リービッヒの最少律から鉄が最も欠乏しやすい元素であるという類推に基づくものであった。しかし当時は海水を微量金属の汚染なく採取し、高感度でその中の鉄濃度を測定する技術がなかったため、これを証明することはできなかった。 1980年代にジョン・マーチン(英語版)らが北太平洋において汚染なく海水中の鉄濃度を測定し、鉄添加培養実験を行うことによって鉄の添加が植物プランクトンの増殖をもたらすことを初めて確認した。これをもとに彼はHNLC海域への鉄供給(おもに大気からのエアロゾル)の変化が植物プランクトンの生産の変化を通じて大気中の二酸化炭素分圧を変動させ、地球規模の気候変動を駆動するといういわゆる鉄仮説を提唱した。 さらにジョン・マーチンらのグループは鉄制限の根拠をより確かなものにするため、現場海水に高濃度の鉄溶液を撒布するという大規模実験を計画する。なお、彼はこの成果を見ることなく逝去するが、太平洋赤道域において行われた世界最初の現場鉄撒布実験は表層におけるクロロフィル濃度の増大をもたらし、鉄仮説はより強固なものになった(この成果はジョン・マーチンを第一著者として発表された)。 その後、南極海および北太平洋亜寒帯域においても同様の現場鉄撒布実験が行われ、いずれの場合も珪藻を中心とした植物プランクトン生物量の増加、二酸化炭素分圧の低下を確認している。
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