転写活性化システム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/14 14:19 UTC 版)
PPARγは9-cis-レチノイン酸をリガンドとし核内受容体の一種であるレチノイドX受容体 (RXR) とヘテロ二量体を形成し(RXRはビタミンD受容体など他の核内受容体とも複合体を形成する)、DNA上のPPAR応答領域 (PPRE) に結合する。PPREはコア配列 (5'-AGGTCA-3') を同一方向に2回繰り返したいわゆるダイレクトリピート型とよばれる型の核酸塩基配列 (DR1) であり、それぞれのコア配列の間には塩基を1つ挟む(5'-AGGTCA-N-AGGTCA-3':Nは任意の塩基)。 PPARγは分子構造の変化によりDNAとの相互作用が可能となるが、これを受容体の『活性化』と呼んでいる。PPARγの活性化はリガンド依存的なものと非依存的なものとが存在しており、それぞれAF-1およびAF-2の活性化ドメインが重要となる。リガンド非依存的な活性化に関してはよくわかっていないところが多いが、転写共役制御因子(コリプレッサー)であるN-CoRやSMATの存在下にDNAと結合して標的遺伝子の発現を抑制する。N-CoRやSMATはヒストンの脱アセチル化に関与する酵素HDACと複合体を形成することで発現される酵素活性によってクロマチンを密な状態に保ち、転写を負に制御する。この機構は"Active Repression"と呼ばれる。 一方、PPARγのリガンド結合ドメインにリガンドが結合すると受容体蛋白質の構造変化によりN-CoRなどのコリプレッサーが解離する。これによりAF-2領域のLXXLLモチーフに活性化補助因子(コアクチベーター)が結合することができるようになる。コアクチベーターはヒストンアセチル化活性(HAT活性)を有するCBP/p300などから構成される複合体であり、PPARγへリガンドが結合することでリクルートされ、転写の活性化を引き起こす。この複合体は、1) HAT活性を有するタンパク質複合体、2) PPARγと基本転写因子複合体(ホロ酵素)を橋渡しするHAT活性を持たない転写共役因子複合体(TRAP/DRIPなど)、3) クロマチンリモデリングに関与する複合体(SWI/SNF複合体など)から形成される。ヒストンのアセチル化はヒストン構造中にあるリジン残基の正電荷の中和を引き起こし、DNAとの結合が緩められる結果基本転写因子やRNAポリメラーゼがアクセスしやすい状態になる。 また、PPARγの活性化レベルはリン酸化により制御されていると考えられている。核内受容体の中ではエストロゲン受容体 (ER) αが比較的研究が進んでおり、ERαのAF-1の中にあるSer118はMAPキナーゼによりリン酸化を受けることが報告されている。一方で、PPARγがリン酸化されることでその活性が抑制されることも報告されている。MAPキナーゼファミリーの一員であるERKはPPARγのA/Bドメインに存在するSer112をリン酸化するとされており、同ファミリーに属するJNKもまたSer82をリン酸化を行い、いずれの場合もPPARγの転写活性を減退させる。
※この「転写活性化システム」の解説は、「PPARγ」の解説の一部です。
「転写活性化システム」を含む「PPARγ」の記事については、「PPARγ」の概要を参照ください。
- 転写活性化システムのページへのリンク