複製後修復(PRR)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/29 13:52 UTC 版)
紫外線照射により生じる塩基二量体はNERによって修復させる。しかし、NERのみでは紫外線による損傷のひとつであるCPD(シクロブタン型ピリミジン二量体:cyclobutane pyrimidine dimer)を完全に取り除くことは難しく、損傷発生から24時間経っても、転写を受ける領域、受けない領域に関わらずゲノムに多くの損傷が残っていることが示されている。そのため、複製や転写の途中でポリメラーゼが損傷に遭遇し、反応が完了できない事態に陥る。これは、染色体異常や細胞死、転写産物量の激減によるあらゆる代謝の異常を引き起こすため、生物にとって非常に有害である。特に紫外線損傷は生物が日光の下にいる以上は常に発生するため、損傷残存によるこのような危機を回避するためには、複製や転写を行う際に紫外線損傷がDNA上に残っていても、どうにか複製・転写を無事に完了させることが求められる。 生物はこうした危機から自らを防御するため、転写に共役した修復(TCR)とPRR(Post-replication Repair:複製後修復)と呼ばれる機構をもっている。前者は、RNAポリメラーゼが損傷に遭遇したときに、NERが活性化されて転写反応進行中の鋳型鎖から速やかに損傷を除去する機構である。後者のPRRは、修復のための機構ではなく、DNAポリメラーゼが損傷に遭遇し複製フォークが停止したときに、通常の複製反応とは異なるいくつかの経路によって損傷の存在する塩基の複製を行い、複製をひとまず完了させる機構であり、ゲノムに残存した損傷は後から別の機構により修復される。 PRRは、酵母を用いた研究で、相同組み換え(HR:Homologues Recombination)により複製を行う経路(Rad51-dependent pathway)とRad6に依存する経路が存在することがわかっており、更に後者は、テンプレートスイッチと呼ばれる無傷の姉妹鎖を使って複製を行う経路と損傷の残っているDNA鎖を鋳型に強行的に複製反応を進める経路(TLS: Translesion Synthesis, 損傷乗り越え複製)があることが明らかになっている。TLS以外の経路では、損傷の無いDNA鎖を鋳型として複製を行うため、本質的に無謬であるが、TLSは損傷DNAを鋳型にして複製を進める性質上、誤謬が生じやすく、それゆえに普段の複製時には機能しないように厳密に制御されている。 Rad6依存的な経路では、無謬性(error-free)の複製が行われるかTLSによる誤りがち(error-prone)な複製が行われるかは、PCNAの翻訳後修飾(Post-replicational modification)によって制御されている。Rad6-Rad18依存的に164番目のリジン残基がモノユビキチン化されるとTLSが行われ、その後Rad5依存的にポリユビキチン化が行われるとテンプレートスイッチによる無謬性複製が行われる。
※この「複製後修復(PRR)」の解説は、「DNA修復」の解説の一部です。
「複製後修復(PRR)」を含む「DNA修復」の記事については、「DNA修復」の概要を参照ください。
- 複製後修復のページへのリンク