蜜蜂、熱、脂肪
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/10 21:38 UTC 版)
ボイスはシュタイナーの講演集にある「蜜蜂について」論じた文章から影響を受け、独自の熱理論と造形理論を形成した。彼によれば、蜜蜂はその熱によって蜜蝋(脂肪の一種)から幾何学的な巣を作り出す。混沌とした不定形の物質で、熱で溶け去ってしまうような脂肪が、熱の働きによって結晶質の秩序立った建築へと変わることに、(さらにまた熱で溶けて不定形へと流転しうるプロセスに、)彼は彫刻形成の原理を見た。 またこうした原理の根源には、熱という、永続的・潜在的なエネルギーであり、混沌として流出し流動する要素が存在する。不定形のものを秩序ある形にするのは、物理的な力ではなく、有機的で流動的なエネルギーである、ということが彼の彫刻理論の基礎にある。 ボイスは復員後の長期の療養以来、極めて感覚が敏感になってしまったが、こうした知覚によって、熱で燃えてエネルギーを発散し、しかもクリームのようにも固体にもなる脂肪という物質を発見した。同様にフェルトにも、熱を蓄える性質を持ち、しかもごわごわと厚ぼったい不定形な印象があることを見出した。こうして彼は、脂肪、フェルト、蝋、バッテリーなど、彫刻の素材にはなりそうもないものを、熱を蓄え、暖め、造形される物質として立体作品の素材にした。 また、熱のように造形力のあるエネルギーによって、不定形のものを秩序ある形態に変える、という彫刻理論は、やがて造形作品の制作だけでなく、パフォーマンスを通じた活動や、個人や社会を変える教育活動・社会活動へと拡張してゆく。そして人間の行う活動は労働あれで何であれすべて芸術であり、すべての人間は芸術家である、という認識へと至った。
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