自然失業率の変化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/14 16:05 UTC 版)
産業構造の変化や就労意識の変化、企業や家計の行動に変化を促すような規制や税制の改革によって、労働需要や労働供給が影響を受けると、自然失業率は変化する。 失業が長期に及ぶと、ブランクが忌避されることや技能の陳腐化などにより、再び職を得ることが容易ではなくなる。 金融危機などによって、大幅に景気が落ち込んで景気回復に時間がかかり長期失業者が発生すると、循環的失業が次第に構造的失業へと変化し、自然失業率は上昇する(このような、一時的要因による失業の増加が、長期的な失業水準の上昇へと繋がることを履歴効果と呼ぶ)。そして、そのことが景気回復を阻害してしまうという悪循環に陥る。このように総需要への負のショックは永続的な失業を生み出し得るため、大幅な景気の落ち込みに対しては、出来るだけ迅速に、かつ十分な規模の景気刺激策を行うことが重要となる。 ローレンス・ボールは、インフレ率の低下および低インフレ状態の継続を経験した国や、拡張的金融政策が追求されなかった国において、自然失業率が上昇することを指摘した。 また、ジョージ・アカロフやロバート・シラーらも、インフレ率によって自然失業率が変わってくることを示し、長期のフィリップス曲線がミルトン・フリードマンが言うような垂直ではないことを指摘した。 インフレ率が非常に低い状態ないしデフレーションの場合には自然失業率が高まることが示されているが、これは、名目賃金の硬直性によりインフレ率の低い領域では実質賃金の調整が一層困難となり失業が解消されにくいこと、またその失業が履歴効果などによって長期的に固定化・構造化してしまうことなどによる。このことはまた、インフレ率という貨幣的現象が、自然失業率という実体経済の現象に影響を与えることを示しており、貨幣の中立性が長期においても成立しないことを表している。 アカロフらの研究によると、デフレを含む非常に低いインフレ水準においても、また逆に非常に高いインフレ水準においても、自然失業率が高まってしまう。このことは、完全雇用時における雇用量を最大化するという観点からの望ましいインフレ率が存在すること、およびその水準の決定に関する理論的背景の一つを提供する。このことはまた、インフレ率の水準などを勘案せず、自然失業率の達成や産出量ギャップの有無だけでマクロ経済のパフォーマンスを判断することの危険性を示している。 たとえば、低インフレ経済において失業率を低下させる政策が採られた場合、一時的には失業率が自然失業率を下回るためインフレが加速するが、それによってインフレ率が高まることによって自然失業率の水準も低下するため、失業率が自然失業率よりも高い状態になればインフレはもはや加速しなくなる。このように、インフレ率の非常に低い経済においては、一時的にインフレが加速したとしても、維持不可能なほどに失業率が低すぎるとは即座には判断できない。
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