美しき町
美しき町
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/03 04:21 UTC 版)
小学館『プチフラワー』1987年10月号初出、40ページ 1960年代の日本を舞台に、工場の町に住む若い夫婦の静かな生活を描いた作品。 塚田サナエさんとノブオさんは、見合い結婚をした後、新居をノブオさんが働く工場の向かいのアパートに定めて暮らしている。ノブオさんは月曜から土曜まで週6日間働き、夜勤は月3回。日曜日には夫婦で連れ立って丘に登り、そこで自分たちの住む町を見渡しながらお弁当を食べる。夏の終わりころ、サナエさんはアパートの部屋を、ノブオさんも所属する労働組合の集会所として提供してもらうよう頼まれる。集会は月2回。サナエさんはあるだけの座布団を敷いたりお茶を配ったりし、集会中はカーテンを使って部屋の隅に作った個室で家計簿をつけたりして過ごしている。 集会で特に熱心に意見を述べているのは、ノブオさんと同い年で隣の部屋に住む伊出さんだ。ある日の夜、夫婦の部屋の真上で騒がしい音がする。それは上の階に住む田中さんの夫婦喧嘩で、伊出さんの話では三月に1回はあるのだった。そうして今回は、喧嘩の際に放り投げられた男物の下着が、伊出さんの部屋のベランダにひっかかっていたという。伊出さんは「楽しみを分けてあげた」というような顔をしながら、サナエさんに下着を託す。しかしサナエさんもノブオさんも躊躇してしまい、託された下着を田中さんに届けることができない。二日後に「どうだった?」とうれしそうに尋ねてきた伊出さんに「届けなかったんだ」とノブオさんが答えると、伊出さんは機嫌を損ね、ノブオさんの担当していた集会用の名簿を明日までに作成するように、と嫌がらせをする。 夫婦はその日、二人がかりで夜通しガリ版を刷り、名簿がすり終わった頃には明け方になっていた。夫婦はベランダに腰掛けて、まだぼんやりと明かりがついている向かいの工場を眺める。そうして、何十年もたったときにふと、今のこうしたことを思い出したりするのだろうかと、言葉を交わさないまま二人で同じことを考える。
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