立法事実の審査
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/06 05:52 UTC 版)
訴訟手続では、争点となる事実関係の有無につき当事者による主張立証がされ、それを下に裁判所は事実認定をし、認定された事実について法を適用して判決をする(ここでいう事実を司法事実又は判決事実という。)。憲法訴訟でも、以上のような事実の有無の審理がされることは変わりがない。しかし、憲法訴訟においては、以上のような具体的・個別的な事実のほか、適用される法令の制定の基礎を形成し、かつその合理性を支える社会状況などの一般的事実の存否を調べることが重要になる。このような事実を立法事実という。 アメリカ合衆国においては、女性労働者の労働時間を1日10時間に制約する法律の合憲性が争われた訴訟において、ブランダイス弁護士が、法律論についてはわずか2頁しか充てず、残りの約100頁を長時間労働が女性の健康に与える悪影響について医学的な論証や統計資料により構成する上告趣意書を提出したことを切っ掛けに、立法事実を重視するようになった。 これに対し、日本においては、いわゆる薬事法距離制限条項違憲判決で、当時、薬局開設に関して距離制限を定めていた薬事法の規定が違憲であるか否かにつき、上告人・被上告人ともに立法事実論を展開し、それに対し、最高裁も判決の理由中で立法事実につき詳細な論述を展開したものとして注目された(最大判昭和50年4月30日民集29巻4号572頁)。 立法事実は法令の効力に関する事実なので、その認定については、司法事実の認定とは異なり、当事者が主張立証しない事実を判決の基礎としてはいけないという弁論主義は妥当しないと解されている。つまり、訴訟当事者が主張立証しない事実を職権で考慮することができるのが建前である。もっとも、裁判所が立法事実を正確に把握するためには、実際問題としては訴訟当事者による資料提出に負う面が大きい。
※この「立法事実の審査」の解説は、「憲法訴訟」の解説の一部です。
「立法事実の審査」を含む「憲法訴訟」の記事については、「憲法訴訟」の概要を参照ください。
- 立法事実の審査のページへのリンク