登場人物を騙す偽主人公
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/15 05:26 UTC 版)
ソビエト連邦の昔話研究家ウラジーミル・プロップは、ロシアに伝わる魔法を題材にした昔話を収集して分析するうち、収集した全ての昔話には決まった物語の類型があり、決まった順序で起こる31種類の出来事(31の機能分類)と、7種類の役割の登場人物(7つの行動領域)に収斂されることを発見して、そのことを1928年の著書『昔話の形態学』の中で発表した。この7種類の役割の登場人物が敵対者、贈与者、助力者、王女、派遣者、主人公、そして偽主人公である。 プロップが発見した昔話の類型において、主人公は探求あるいは被害の解消のために派遣され、試練を受けて解決手段を贈与され、敵対者と戦ったり、あるいは何らかの成果の印を残したりする。そして帰路についた主人公を待ち受けるのが、不当な要求によって主人公の成果を横取りしようとする偽主人公との対立である。偽主人公は主人公と同じように出発するが、試練において否定的な回答を示し、しかし手柄を立てたのは自分であると嘘の主張をするのである。しかし偽主人公の要求は「主人公の発見」「偽主人公の正体の露見」「主人公の変身」「偽主人公の処罰」という順序の段取りを経て挫かれる。偽主人公を退けた主人公は、偽主人公の嘘を見抜いて処罰に協力した王女と結婚したり、王位に即位したりする結末を迎える。 プロップの類型は魔法が登場するロシアの昔話を基にした類型であり汎用性に欠ける部分もあるものの、この31種類の出来事と7種類の役割に具体的な内容を埋めていくだけで、誰でも比較的簡単に物語のあらすじを作ることができる。偽主人公は敵対者とひとまとめにされる場合もあるものの、成功したファンタジー作品にはプロップが発見した類型に当てはまるものが多く見られ、実際にこの類型を意識した作劇がなされることもある。 プロップの類型のうち、偽主人公が登場する部分だけが物語に組み込まれる場合もある。例えばスーパーヒーローものでは偽ヒーローが登場するエピソードが定番となっており、しばしば主人公と同じ姿や同じ能力を与えられたスーパーヴィランが、主人公に成り済まして悪行を行ったり、主人公に戦いを挑んだりして、能力の模倣だけでは再現できない主人公との資質の差を浮き彫りにするエピソードが描かれたりする。
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