演説と質問の背景
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/14 07:16 UTC 版)
保阪正康は、鈴木は終戦に導いていくために、議会の力を借りるべく、演説のこの発言で和平に向けた真意の理解を求めたのではないかと記している。 半藤一利は、日本の立場(平和を愛する天皇と国家)を訴えて連合国の無条件降伏の主張を変えさせることが演説の目的だったとし、込められた意図が前駐日米大使であり米国国務次官であるジョセフ・グルーや戦争情報局で日本の和平派に向けたメッセージ放送(ザカライアス放送)を短波ラジオで流していたエリス・M・ザカライアスに、同盟通信の古野伊之助や井上勇(ザカライアスの放送に対する質問を、対米短波放送でおこなっていた)によって伝えられていたとしている。 ザカライアス放送では7月7日の第10回で鈴木の演説について取り上げたが、それは「天罰」を含む箇所ではなく、国力の現状について率直に述べた箇所で、その事実に対して演説が「徹底抗戦が唯一取るべき道」という「全く矛盾した結論を引き出した」と指摘し、絶望的な状況を終わらせるために鈴木に対して「日本国民の絶滅や奴隷化を意味しない無条件降伏」を速やかに受け入れるべきだとする内容であった。 小堀桂一郎によると、鈴木の演説はアメリカのワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズにも要約されて紹介されたが、そのいずれにおいてもサンフランシスコ訪問に関する箇所は省略され、「無条件降伏は拒否する」という点に焦点が当てられていた。一方、ニッポンタイムズはその部分を訳出し、またラジオ・トウキョウを通じて演説が伝えられたため、日本側は海外に対して発表を伏せていないという。この点に関して小堀は、米紙がその部分を訳出しなかったのはむしろ国内の戦意低下を恐れて公表を控えたのではないかという平川祐弘の推論を踏まえ、鈴木の真意は和平の意思をアメリカに伝えることだったが、ザカライアスも含めてその意図はアメリカ側とかみ合わなかったと評している。 一方、護国同志会をはじめとする議会側は、徹底抗戦派の陸軍幹部がこの機会に鈴木内閣を倒閣することを望んでいた。護国同志会の一員だった中谷武世は戦後の回想録で「内閣と護国同志会とが、首相の演説をめぐって激突した時点に於て、機を逸せず終戦派との対決姿勢を打ち出し、手遅れにならぬ中(うち)に和平降伏への動きを封ずべきだった」と記している。
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