沼地での戦闘
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/02 01:00 UTC 版)
「フォルム・ガッロルムの戦い」の記事における「沼地での戦闘」の解説
マルティア軍団とパンサの新兵大隊は、突如として前方と側面からアントニウスの軍団に襲われた。しかしカエサルのもとで戦ってきたマルティア軍団の古参兵たちは崩れず、戦闘に不慣れな新兵大隊を後方に逃したうえでアントニウス軍と衝突した。街道上でアントニウスの近衛大隊とオクタウィアヌスの近衛大隊が激しく戦っている間、パンサとカルフレヌスはマルティア軍団を2分した。カルフレヌスは8個大隊からなる集団を率いて街道の右側の沼地へ、パンサは残りの2個大隊とヒルティウスの近衛大隊からなる集団を率いて左側の沼地へ突入していった。一方アントニウスは第35軍団の古参兵をカルフレヌスの8個大隊にぶつけ、第二軍団の全軍をパンサの軍にあたらせた。 カエサルが育てた古参兵同士の戦闘は、劇的で凄惨なものになった。歴史家のアッピアノスによれば、軍団兵たちの兄弟殺しがより悲痛なものになったのには次のような理由があった。アントニウスに従うカエサル古参兵たちは、マルティア軍団が自分たちを裏切って元老院派についたことに激怒していた。一方マルティア軍団のカエサル古参兵たちは、ブルンディシウムでアントニウス軍から離脱した際に十分の一刑などの過酷な罰を与えられており、その復讐に燃えていた。両軍ともに己が決定的な勝利を挙げられると信じており、その古参兵たちのプライドが戦闘の熱狂をさらに高めたのだという。 しかし一方で、カエサル古参兵同士の戦闘は、陰鬱で音もたてずに進んだ。彼らは雄叫びを挙げることも、敵を味方に引き入れようと声をかけることもせず、沼地や谷間の中で肉薄戦を繰り広げた。時折陣形を整えるために休憩が挟まれること以外、この兄弟殺しの殺戮劇を止めるものは無かった。古参兵たちは、激励が無くとも自分たちのすべきことをよく理解していた。彼らは決して緩むことなく頑固に戦い続けたのである。パンサの未熟な新兵たちも、この凄惨ながら静謐なカエサル古参兵同士の殺し合いを見て心を奮い立たせた。 沼地で続く戦闘は、しばらくどちらが勝つともわからない状態だった。右翼ではカルフレヌス率いる8個大隊が徐々に押し始めたものの、アントニウス側の第35軍団も規律を失わず巧みに後退していた。一方左翼のパンサ率いるマルティア軍団の2個大隊およびヒルティウス近衛大隊は、当初激しく抗戦したものの、徐々にアントニウス側の第2軍団に潰され始めた。最終的に、この戦闘はアントニウスが優勢になっていった。エミリア街道上の中央では、アントニウスとシラヌスの近衛大隊がオクタウィアヌスの近衛大隊に打ち勝ち、これを完全に壊滅させていた。 カルフレヌス麾下の右翼のマルティア軍団兵たちは500歩ほどの距離を押し進んだものの孤立し、アントニウスのムーア人騎兵隊に襲われた。カルフレヌスはここで致命傷を負い、彼の古参兵たちは騎兵の攻撃を跳ね返しながらも後退し始めた。一方これに相対していたアントニウス側の第35軍団も疲れ切っており、すぐには退却する敵を追わなかった。左翼の沼地では、最前線でみずから戦っていたパンサも致命傷を負った。彼が投槍で負傷したことで、彼の麾下のマルティア軍団兵の間に動揺が走った。負傷した執政官はボノニアへ送られ、残った2個大隊もアントニウス側の第2軍団の古参兵に押されて、戦列を乱して逃げし始めた。この混乱が、はるか後方で予備部隊として待機していた2個新兵軍団にも波及した。マルティア軍団の古参兵たちが崩壊したのをみた新兵たちは、参を乱して陣へ逃げ帰った。 アントニウスの軍団兵は足早に追撃して、敵陣に逃げ帰る古参兵や新兵たちに大損害を与えた。しかしマルティア軍団の生き残りは陣営の外であらためて守りを固めたため、アントニウス軍もそれ以上の追撃をためらった。元老院派の全軍は事実上陣営の中に閉じ込められ、アントニウスに降伏するか包囲戦を戦い抜くかを迫られた。しかしアントニウスにしてみれば、ここで時間を無駄にするわけにはいかなかった。ムティナではヒルティウスとオクタウィアヌスの軍勢が健在であり、彼らがムティナに残してきた包囲軍を突破してしまえば元も子もなくなるからである。そのためアントニウスはフォルム・ガッロルムにとどまらず、軍勢を率いてムティナへ戻ることにした。午後、勝利に沸くアントニウスの2個軍団は、エミリア街道をムティナに向かって進み始めた。兵たちは疲れ切っていたが、一方で大勝利に酔いしれてもいた。
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