森林限界とハイマツ帯
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/08 08:48 UTC 版)
「日本の高山植物相」の記事における「森林限界とハイマツ帯」の解説
ヨーロッパアルプスや北アメリカのロッキー山脈では、亜高山針葉樹林帯は標高が高くなるにつれて森林の密度と樹木の高さが減少して行き、やがて樹木が見られない森林限界に達し、それより高い場所は高山帯に入る。この亜高山針葉樹林帯から高山帯に移行する部分については森林限界移行帯と呼ばれ、ドイツ語圏のヨーロッパアルプスではカンプフゾーンとも言われている。カンプフゾーンとは戦う場所という意味のドイツ語であり、これは木本植物が主要な構成種である亜高山針葉樹林帯を構成する樹木が、木本植物の樹林帯を形成するために厳しい高山環境と戦っている場所であるとの意味を込めている。 一方、日本では亜高山針葉樹林帯からわずかな移行帯を経て急激にハイマツ帯に移行し、ハイマツ帯の上部に高山帯の草本群落が広がるという特徴が見られる。日本でヨーロッパアルプスやロッキー山脈と比較的類似した森林限界移行帯が見られるのは富士山である。第四紀火山である富士山は、高山帯の成立が新しかったためにハイマツが進出できず、針葉樹林帯を形成する樹木の一つであるカラマツがダケカンバ、ナナカマドなどとともに徐々に森林の密度を下げ、樹高も低くなりながら標高の高い地域まで分布し、上部には草本が分布する高山帯が見られる。 元来日本の高山帯も、氷期にはヨーロッパアルプスやロッキー山脈と同様の森林限界移行帯を経て、高山帯となっていたとの説が唱えられている。この説によれば、最終氷期終了後に成立した多雪という気候条件が日本の高山にハイマツ帯を発達させたということになる。一方、台湾の高山にはニイタカビャクシン、ヒマラヤ山脈にはシャクナゲ、アフリカのケニア山などではキク科の低木林が見られ、ヨーロッパでも氷期に氷河の影響を受けることが比較的少なかったと考えられる東ヨーロッパの高山には、日本のハイマツ帯と似たムゴマツ帯が見られることから、ハイマツ帯のような低木帯を経て高山帯に至る日本の森林限界の状態がむしろ普遍的であり、氷期に氷河の大きな影響を蒙ったヨーロッパアルプスやロッキー山脈は、氷河によって低木帯が大きな打撃を受けたため、氷期が終了した後、亜高山針葉樹林帯を構成する樹木が密度と高度を減じながら高山帯に至る現在の森林限界移行帯が成立したとの説もある。
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