本実験と万有引力定数についての議論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/18 16:09 UTC 版)
「キャヴェンディッシュの実験」の記事における「本実験と万有引力定数についての議論」の解説
キャヴェンディッシュの目的が万有引力定数 G の決定であったと書かれている書籍、をみつけることは容易であるが、同時にこの錯誤は多くの著者によって指摘もされている。実際には地球の密度の測定がキャヴェンディッシュの唯一の目的であり、彼はそれを「weighing the world: 世界 (地球) の計量」と呼んだ。キャヴェンディッシュが地球の密度の計算のために用いた方法の本質は、既知の質量を持つ大鉛球により小鉛球に働く力を計測し、地球により小鉛球に働く力と比較することにある。それにより G を直接的に求める必要なしに大鉛球の N 倍の質量を持つものとして地球の質量が計算できる。重力定数はキャヴェンディッシュの論文では示されず、それが彼の実験の目的とはされていない。本実験に基づいて G を計算した最初の文献のひとつは1873年すなわちキャヴェンディッシュの実験の75年後であった。 キャヴェンディッシュの時代には、科学者の間では G は今日のような重要性が認識されておらず、それは単にニュートンの万有引力の法則における比例定数に過ぎなかった。重力の計測は地球の密度の決定を目的としたものであった。地球の密度は18世紀の天文学で強く求められていた定数であり、地球の密度が既知となれば、その値から月、太陽、さらに他の惑星の密度が求められるのである。この実験以前には、1774年のロンドン王立協会によるシェハリオンの実験 (en) のような地球の密度の測定の試みは存在した。 更なる複雑さの要因は、19世紀中頃にかけて、科学者たちが力の計測のための固有の単位を使用していなかったことである。このことは、普遍の定数として認識されている G の対極として、地球の質量に G を無意味に結びつけた。キャヴェンディッシュは G の値を公表はしなかったが、その実験の結果は G の決定に直接の寄与をもたらすこととなる。1800年代終盤、G を自然界の物理定数のひとつとして認識し始めた科学者たちは、キャヴェンディッシュによる高精度な測定値から次式によって G を計算したのである。 G = g R earth 2 M earth = 3 g 4 π R earth ρ earth {\displaystyle G=g{\frac {R_{\text{earth}}^{2}}{M_{\text{earth}}}}={\frac {3g}{4\pi R_{\text{earth}}\rho _{\text{earth}}}}\,} キャヴェンディッシュによる地球の密度の値 5.448 g cm−3 を国際単位系に変換して G を求めると、 G = 6.74 × 10 − 11 m 3 k g − 1 s − 2 {\displaystyle G=6.74\times 10^{-11}\,\mathrm {m^{3}~kg^{-1}~s^{-2}} } が得られ、これは現代において物理定数として採用されている値 (6.67259 × 10−11 m3 kg−1 s−1) に対して誤差約1%である。
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