実験の目的
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/24 10:04 UTC 版)
パイオニウムの平均寿命を実験で測定することは、パイオニウム崩壊のような低エネルギー領域の物理現象を記述する理論(カイラル摂動論)の精度を検証するためにも重要な課題である。 一般に粒子の平均寿命の逆数は崩壊幅として表されるが、パイオニウムのπ0π0崩壊に対する崩壊幅はS波のππ散乱長と関係している。パイオニウムA2πの基底状態について、平均寿命τと崩壊幅Γは τ A 2 π − 1 = Γ A 2 π → γ γ + Γ A 2 π → π 0 π 0 {\displaystyle \tau _{A_{2\pi }}^{-1}=\Gamma _{A_{2\pi }\to \gamma \gamma }+\Gamma _{A_{2\pi }\to \pi ^{0}\pi ^{0}}} Γ A 2 π → π 0 π 0 = 2 α 3 p ∗ 9 | a 0 − a 2 | 2 m π + 2 ( 1 + δ ) {\displaystyle \Gamma _{A_{2\pi }\to \pi ^{0}\pi ^{0}}={\frac {2\alpha ^{3}p^{*}}{9}}|a_{0}-a_{2}|^{2}m_{\pi ^{+}}^{2}(1+\delta )} と表される。ここで、αは微細構造定数、p*はパイオニウム静止系におけるπ0の運動量、a0とa2はアイソスピン0と2におけるS波のππ散乱長、mπ+はπ+の質量、δはQEDとQCDによる補正項であり、δ=(5.8±1.2)×10-2の値が知られている。 上式中の散乱長は、カイラル摂動論を用いて誤差1.5%という高い精度で予言でき、 | a 0 − a 2 | t h e o r y = ( 0.265 ± 0.004 ) × m π − 1 {\displaystyle |a_{0}-a_{2}|_{\mathrm {theory} }=(0.265\pm 0.004)\times {m_{\pi }}^{-1}} と求まる。この値を用いると、パイオニウムの平均寿命の理論値はτ=(2.90±0.10)×10-15秒となる。 このように、もしパイオニウムの平均寿命が実験で精密に測定できれば、量子色力学の低エネルギー有効理論としてのカイラル摂動論の検証に役に立つ。 一例として、2011年にDIRAC実験から報告された結果では、21227個のサンプルによって得られた平均寿命と、そこから換算されたS波のππ散乱長の差は τ e x p . = ( 3.15 − 0.19 + 0.20 | s t a t − 0.18 + 0.20 | s y s t ) × 10 − 15 s {\displaystyle \tau _{\mathrm {exp.} }=(\left.3.15_{-0.19}^{+0.20}\right|_{\mathrm {stat} }\left.^{+0.20}_{-0.18}\right|_{\mathrm {syst} })\times 10^{-15}\mathrm {s} } | a 0 − a 2 | e x p . = ( 0.2533 − 0.0078 + 0.0080 | s t a t − 0.0073 + 0.0078 | s y s t ) × m π − 1 {\displaystyle |a_{0}-a_{2}|_{\mathrm {exp.} }=(\left.0.2533_{-0.0078}^{+0.0080}\right|_{\mathrm {stat} }\left.^{+0.0078}_{-0.0073}\right|_{\mathrm {syst} })\times {m_{\pi }}^{-1}} となる。この実験結果は、パイオニウム基底状態の平均寿命に対して9%、ππ散乱長に対しては4%の誤差を持つ精度である。
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