有理数体上の四元数環
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/05 03:16 UTC 版)
有理数体 Q 上の四元数環(有理四元数環)は、Q 上の二次体のと同様だがより複雑な算術理論をもつ。 B を Q 上の四元数環とし、Q の座 ν とそれによる Q の完備化を Qν(つまり、適当な素数 p に対する p-進数体Qp か実数体 R のいずれか)とすると、Qν 上の四元数環 B ν := Q ν ⊗ Q B {\displaystyle B_{\nu }:=\mathbb {Q} _{\nu }\otimes _{\mathbb {Q} }B} が定まる。そしてこれは Qν 上の二次全行列環か多元体のどちらかになっているはずである。 このとき、B が ν において分裂 (split) する、あるいは不分岐 (unramified) であるとは、Bν が Qν 上の二次全行列環に同型となることをいう。他方、Bν が Qν 上の多元体となるとき、B は ν において非分裂 (non-split) である、あるいは分岐 (ramified) するという。例えば、有理数係数のハミルトン四元数の全体は座 2 において分岐し、かつ全ての奇素数と ∞ において分裂する。有理数体上の二次全行列環はすべての座において不分岐である。 座 ∞ において分裂する有理四元数環は実二次体のアナロジーであり、∞ において分岐する有理四元数環は虚二次体のアナロジーである。このようなアナロジーは、生成元の最小多項式が分裂するとき二次体は実埋め込みをもち、そうでないとき非実埋め込みを持つことからきている。このアナロジーの強さの説明として、有理四元数環の整環における単数群に関係するものがある。それは「∞ で分裂する有理四元数環ならば無限群であり、さもなくば有限群である」[要出典]というものである。これはちょうど「二次環の整環の単数群が、実二次のとき無限群、そうでないとき有限群である」という場合のアナロジーになっている。 有理四元数環が分岐するような座の数は常に偶数であり、このことは有理数体上の二次の相互律に同値である。さらに、B が分岐するような座の全体は、多元環としての同型を除いて B を決定する(つまり、互いに同型でないような有理四元数環が、同じ分岐座の集合を共通して持つことはない)。B が分岐するような素数すべての積をとったものは B の判別式 (discriminant) と呼ばれる。
※この「有理数体上の四元数環」の解説は、「四元数環」の解説の一部です。
「有理数体上の四元数環」を含む「四元数環」の記事については、「四元数環」の概要を参照ください。
- 有理数体上の四元数環のページへのリンク