月による掩蔽
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/09 08:39 UTC 版)
掩蔽という用語は、月が地球の周囲を公転していくときに恒星の正面を通過していくという、比較的頻繁に起こる現象に対して通常最もよく使われる。ただし、これは「星食」(せいしょく)と呼ばれることが多い。月には大気が無く、恒星の見かけの大きさも0と扱えるので、恒星が月に隠れるときは月の縁で極めて瞬間的に消えたり再出現したりするように見える。月の暗いほうの縁で起こる現象は、月の眩しい輝きが無いために観測や時間の計測が容易になるので、観測者にとっては特に面白いものである。 月の軌道は黄道に対して傾いているため、黄緯約6.5度以下の恒星は全て月に掩蔽される可能性がある。この範囲には黄道面に十分近いために月や惑星に掩蔽される可能性のある1等星が3つある。レグルス、スピカ、アンタレスである。惑星はアルデバランの北を通り過ぎるため、アルデバランの掩蔽は現在のところ月によるもののみ起こる。ポルックスの月や惑星による掩蔽は現在いずれも起こり得ない。しかし、将来的には、遠い過去と同じように、アルデバランとポルックスの掩蔽も起こるようになる。 星食が起こると予報された経路の限界線の縁は、北限界線と南限界線と呼ばれるが、その付近では不規則な形をした月縁が通過するために、恒星が断続的に出たり消えたりするのが見られることがある。これは接食として知られている。観測上・科学的立場からすると、この「接食」は、星食の中で最も劇的で面白いものである。 普通、(主にアマチュアの)天文家によって、星食が起きた時間は正確に計測されている。かつては眼視観測による10分の数秒程度の精度でしか観測できなかったが、現在はGPSと超高感度ビデオカメラによる観測が主流となり、100分の数秒単位で正確に計測できるようになった。星食の時間のデータには様々な科学的用途があり、これまでは主に月の地形図に関する知識をより正確にするために使われていたが、日本が打ち上げた月探査衛星「かぐや」によって極めて正確な月の地形図が完成したため、現在は重星、特に近接連星の観測に多く使われるようになっている。初期の電波天文学者たちは、波長の長い電波の直接観測による解像度が限られていることから、月による電波源の掩蔽が、電波源の正確な位置を測定するのに役立つことを発見した。 1年のうち普通数回は、地球上のどこかで惑星が月に掩蔽されるのを観測することができる。これは惑星食と呼ばれることが多い。惑星は、恒星と違って、はっきりとした見かけの大きさ(視直径)がある。そのため、惑星食では、完全な惑星食が起こる領域に接して、部分的な惑星食が起こる狭い帯状の領域ができる。この狭い領域の中にいる観測者は、惑星面がゆっくりと動いていく月に部分的に隠されるのを見ることができる。
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