心理学者による統計的な批判の展開
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/03 18:16 UTC 版)
「能見正比古」の記事における「心理学者による統計的な批判の展開」の解説
しかし能見正比古の研究、能見の研究の基礎となった古川の研究、どちらも研究内容は統計学的に「有意の差」を持たないものであり、科学的な試験研究又は調査研究に基づくものではないという批判がある。ただし、それらの批判が表面化したのは能見正比古の死去後(1981年以降)のことである。また、心理学者の多くのサンプルは、一部の例外を除くと、その研究者の講義の受講者などに限られているため、何らかのバイアスが生じている可能性も指摘されている。 一方で、血液型によって統計的に有意な差は生じているが、この差は思い込みによる自己成就現象ではないかという意見もある。社会心理学者の山崎賢治・坂元章は、1978-1988年にかけて延べ3万人の世論調査データを分析した結果、統計に有意な差が見られた。しかし、これらの差は大きいとは言えず、また自己報告を分析対象としたので、予言の自己成就ではないかとしている。長崎大学の武藤浩二・長島雅浩らは、山崎賢治・坂元章の研究結果を確認するため、同じ世論調査のデータを使って2000年代まで追跡したところ、血液型ごとの差は安定しており、一貫して有意差が出ていることが判明した。 社会心理学者の山岡重行は、大学生を対象として1999年(1300人)と2006年(1362人)に調査を行った結果を発表した。血液型により統計的に有意な差が生じているのは、血液型診断の知識や信念を持つ被験者のみであるため、マスコミ等の情報による思い込みによる影響であると結論付けている。その後、サンプル数を6600人に増やしても同じ結果が得られたと報告している。 その一方で、統計的に有意な差が生じている理由は、必ずしも思い込みや予言の自己成就だけで説明できないのではないかという意見もある。複数の血液型診断の本に共通している性格特性が、どの程度のその血液型の人間に知られているかを調査してみたところ、大部分の特性では半分以下であった。これらの特性について、同じ質問項目を使っている山岡(1999)のデータと組み合わせて分析したところ、血液型による差とその特性がどの程度知られているかには関係がなかったという報告もある。 統計的に相関があるという報告の多くは、原因を予言の自己成就によるものとしているが、その存在を直接的に証明した研究はまだない。このため、統計的に相関がないのか、あるいは統計に相関はあるとしても予言の自己成就によるものなのか、あるいはこれらの相関は血液型によるものなのか、現時点では研究者の見解は一致していない。 また、特定の性格検査では血液型による差を検出できないという奇妙な現象も観察されている。例えば、過去に各国で実施された「ビッグファイブ」による性格検査では、計20万人以上を調べても血液型による有意な差は見いだされていない。この性格検査は、自己評定の性格を数値化するため、「血液型ステレオタイプ」を信じている被験者であれば、自己成就による差が出ることも予想されていた。実際に調査した韓国の徐らによると、被験者の大学生に血液型の特徴に関する質問をしたところ、統計的に有意な差が出たとのことである。しかし、同じ被験者にビッグファイブ性格検査を実施しても差は出なかった。そこで、不思議に思った韓国の孫らがこの論文のデータを再分析してみたところ、ビッグファイブ性格検査でも単独の質問なら「血液型ステレオタイプ」どおり差が出ていたとのことである。しかし、複数の質問をビッグファイブの5因子に集約してしまうと、単独では出ていた差が互い打ち消し合ってなくなってしまった。これらの研究報告が妥当だとすると、ビッグファイブを用いた性格検査では血液型の差が検出できない、というおかしなことになってしまう。この奇妙な現象は、韓国と同じく「血液型ステレオタイプ」が浸透している日本でも、思い込みによる予言の自己成就が存在するという論文により裏付けられているものと思われる。
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