希望学とは? わかりやすく解説

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きぼう‐がく〔キバウ‐〕【希望学】


希望学

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/20 05:03 UTC 版)

希望学(きぼうがく、正式名称:希望社会科学、英:Social Sciences of Hope)とは、個人内面の問題とみなされてきた「希望」を、社会にかかわる問題として研究することを目的とする、学際的な研究領域である。2005年度より、東京大学社会科学研究所を研究基盤として、岩手県釜石市福井県を対象とした地域調査が展開されている。

定義と特徴

問題と背景

希望とは、一般に「行動によって何かを実現しようとする気持ち」と定義される[1]。これに対し、東京大学社会科学研究所の「希望学」プロジェクトでは、希望を単なる個人の心理や感情の問題としてだけでなく、その人が置かれた社会環境に影響されて形成され、ひいては社会全体の原動力にもなりうる社会的現象として捉え、研究することを目的としている[2]

歴史と展開

2004年21世紀COEプログラム」の不採択の後、2005年度から2008年度まで、東京大学社会科学研究所の全所的プロジェクトとして「希望学」が実施された[3]。このプロジェクトは、思想・制度研究、経済・歴史分析、社会調査といった多角的なアプローチを結集し、希望という概念を社会科学の対象として確立することを目指した。玄田有史中村尚史宇野重規などを中心に始められた。研究成果は、岩手県釜石市での大規模なフィールドワークや全国的なアンケート調査を基にしており、多数の書籍や論文として公刊されている。また、希望学の研究は発展的に継続しており、2016年度より全所的プロジェクト「危機対応学(Social Sciences of Crisis Thinking)」を開始し、災害経済危機といった状況下での希望の生成・再生メカニズムを統合的に研究している[4]

具体的な問い

希望学における問いは、希望と社会を関連づけた以下のようなものとなる。

  • 「社会において個人が形成する希望とはそもそも何なのか」
  • 「社会が個人の持つ希望にどのような影響を及ぼすか」
  • 「個人の形成する希望が社会状況をどのように規定するのか」

周辺・関連領域

方法

現在まで希望学の主な研究方法は以下の三つである。

  • 思想・理論研究
  • 実証分析

社会調査アンケート

  • 地域調査

インタビューオーラル・ヒストリー、歴史的資料の考察

対象

主なテーマ

  • 希望の定義

明快な意味づけや定義が困難な「希望」を、その困難さの背景を解明したうえで、多面性、多義性、不確実性を包含するような定義付けを目指す。特に、多様な視点、方法論、対象に渡る学際性から導き出される多様な希望の定義を、希望をとりまく個人と社会の関係性、すなわち希望の社会性の表れとして積極的に評価する。 現在までの成果として、希望は以下のように定義されている。 希望とは「行動によって何かを実現しようとする気持ち」(Hope is a Wish for Something to Come True by Action)である[5]

  • 隣接概念との比較

「希望」を、「幸福」「リスク」「楽観」「安定」「想起」など既に学問対象となっている別の概念と対比することによって、その共通性と相違から希望を特徴付ける。

  • 希望有無の決定要因の特定

性別」「年齢」「健康」などの他に、「他者との協力関係構築」「孤独感」「友人の多寡」「家族からの信頼感」のような性格的側面や対人関係への自己意識も含めた、多角的な実証分析が進められている。

  • 問題発見型の地域調査

個人の社会的属性からだけではなく、希望の有無をより動態的に捉えるために、「地方政治」「住民活動」「地域移動」「ライフコース」「企業誘致」「地場企業」などをテーマに、「ローカル・アイデンティティの形成過程と再構築」、「希望の共有」、「地域内外でのネットワーク形成」などの観点から問題発見型の地域調査が行われている。

関連書籍

脚注

  1. ^ 玄田, 有史 (2010). 希望のつくり方. 岩波新書. p. 45 
  2. ^ 玄田, 有史 (2008). “希望と個人(Ⅰ)”. 社会科学研究 59 (2): 1–9. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssiss/59/2/59_1/_pdf/-char/ja 2025年7月20日閲覧。. 
  3. ^ 東京大学社会科学研究所 希望学公式サイト”. 2025年7月20日閲覧。
  4. ^ 危機対応学とは”. 東京大学社会科学研究所. 2025年7月20日閲覧。
  5. ^ 玄田有史『希望のつくり方』岩波新書, 2010年, p.45
  6. ^ 希望学【全4巻】”. 東京大学出版会 (2009–2013). 2025年7月20日閲覧。

参考文献

関連項目

外部リンク



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