小説版との結末の差異
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/23 15:27 UTC 版)
小説『ブンとフン』では、日本国民がみな泥棒を始めてしまう、という結末で終わっている。井上は、1972年に発行された朝日ソノラマ新装版の「あとがき」で、井上は「そのころ、私はありとあらゆる常識や作法をひっくりかえそうと思っており、ほかにいくらでも、いかにも小説小説した終り方があったのだが、もっとも小説作法から外れていると思われるこの終り方を選んだ」としている。 戯曲『それからのブンとフン』では後日談が付け加えられ、結末がひっくり返されている。 世界120か国語に翻訳された1862万5921人のブンたちが、ゴビ砂漠に集い「第一回・世界ブン大会」を開く。ところがその中には、ト連版、丹国版、南ドコニカ共和国版のブンなど、自国の専制政府に都合のいいように設定の改竄されたブンも混じっていた。このため、意見の相違からブンたちは内ゲバを始めてしまい、ついにはオリジナル・ブンとト連版1号、丹国版1号を除いて全滅、世の中もすっかりもとに戻ってしまう。ブンの代わりに見せしめとして地下牢に投獄されたフン先生は、ブンを救うために、新たな小説を書くことを決意する。だが、ペンも紙も与えてもらえないため、自らの指と血を使って壁に小説を書こうとする、というところで幕を閉じる。 結末を変更した理由について、井上は、脚本を初収録した単行本『雨』(1976年)で、「小説版を書いていたころのわたしは、やがてくるべき七〇年安保闘争は六〇年安保闘争など較べものにならぬほどの内爆発を起し、それが引金になってこの国は変るだろう、すくなくとも半永久的に続くと思われている保守独裁は大きな音をたてて崩れ落ることだろうと愚かにも信じていました。なぜ愚かだったのかといえば、自分はなにもせずに改革を夢想していたからです」とし、戯曲の後半は、そのような自分に対する「自己処罰」を意図したものだと述べている。
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