定義の不明確さ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/18 10:13 UTC 版)
在日朝鮮人運動史研究家の金英達の著書『朝鮮人強制連行の研究』(明石書店2003年)によれば、「強制連行」という言葉は、「定義が確立しておらず、ひとによってまちまちな受け止め方がなされている」「もともと、強制連行とは、『強制的に連行された』という記述的な用語である。そして、強制や連行は、実質概念であり、程度概念である。その実質や程度について共通理解が確立されないまま、強制連行という言葉だけがひとり歩きして、あたかも特定の時代の特定の歴史現象をさししめす歴史用語であるかのように受けとめられていることに混乱の原因がある」と指摘している。 藤岡信勝は、「強制連行」という言葉を、政治的な糾弾の機能を担う言葉であるがゆえに、感情を喚起する情動喚起機能が優越しているかわりに対象指示機能がお粗末で、糾弾する側が何にでもこの言葉を貼り付けることが可能な為に、定義も無限に多様化すると分析している。藤岡は、この言葉をサミュエル・I・ハヤカワの言う「唸り言葉」の一種だとし、「彼女は世界中で最も可愛い女だ!」といった言い回しのように、話し手の感情状態を表現しているだけで、対象についての情報を何をもたらさないと述べている:111。 木村幹は、「(朝鮮人)強制連行」という言葉を巡る混乱について、用語の多様性よりも各々の論者が言葉の意味を必ずしも明確にしなかったり、時に自らが定義した意味を逸脱して用いていることにあるようだと述べている。また、日本での強制連行の研究について「これらの研究の大部分が、そもそもの出発点における研究の目的を、日本による戦争犯罪の追求においており、その結果、必然的に多分な価値判断を含むものになっている」としている。 外村大は、「明治維新」など論者によって定義が異なる学術用語は他にも存在するとして、「強制連行」の語に対する批判に反論した。その上で、北朝鮮では「強制連行」という言葉があまり使われていないにも関わらず、北朝鮮が拉致問題を牽制する目的で日本統治時代の「強制連行」を主張しているなどと非難する日本の「国家主義的な歴史観を強めようとする人々」の側が、むしろ「強制連行」の概念を混乱させていると主張している。
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