安藤と宮崎の緊張関係
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/16 17:57 UTC 版)
「千と千尋の神隠し」の記事における「安藤と宮崎の緊張関係」の解説
当初は予定通り安藤雅司が作画工程を統括し、原画修正を任されていた。鈴木敏夫の約束通り、宮崎駿はタイミングのみをチェックした。しかし、日を追うにつれ、宮崎と安藤の間の溝は次第に深まっていった。宮崎は「どこにでもいる10歳の少女を描く」というコンセプトを掲げた。安藤はこの方針に可能性を感じ、今までの宮崎駿監督作にはなかったような現実的な空間を作り上げることで、ジブリアニメに新しい風を吹きこもうとした。そのような試みのひとつが「子供を生々しく描く」ということだった。安藤が用意した千尋のキャラクター設定は、背中が曲がり、無駄の多い緩慢な動作に満ち、表情はぶうたれていて喜怒哀楽が不鮮明だった。これは従来宮崎が描いてきた少女像からかけ離れたもので、とりわけ、目の描き方が一線を画していた。序盤の絵コンテは、千尋の不機嫌なキャラクター性を反映してゆっくりとした展開となった。しかしながら宮崎は、千尋がグズであるがゆえに先行きの見えてこない物語に苛立った。絵コンテでは、千尋が湯屋で働きはじめるまでの段階で、すでに40分が経っていた。そこで、中盤以降は一気にスペクタルに満ちた展開に舵を切った。千尋も序盤とは打って変わってデフォルメされた豊かな表情を見せ、きびきびと行動するようになった。そこには、旧来通りの、宮崎らしい、理想化されたヒロインがいた。安藤はこの方向転換に「違和感と失望」を抱いたが、それでもなお緻密な修正を続け、作画監督の通常の仕事範囲を超えて動画段階でもチェックを行い、場合によっては動画枚数を足すなど、身を削って作業を進めた。カットの増加・作画作業の遅延によって補助的に作画監督(賀川愛・高坂希太郎)が増員されたが、最終チェックはすべて安藤が担った。結局は宮崎も、当初の予定に反して、レイアウト修正・原画修正を担うようになった。宮崎の提示する演出意図と安藤の指示の食い違いに戸惑うスタッフは多かったという。 安藤は制作終了後のインタビューで、最終的には作品と距離をおいた関わり方になってしまったこと、全体としては宮崎の作品の枠を出ることができなかったこと、当初自分で思い描いていた作品はどうしても実現できなかったことを振り返っている。しかし、宮崎は「安藤の努力と才能がいい形で映画を新鮮にしている」と評価しており、鈴木は宮崎と安藤の緊張関係によって画面に迫力がみなぎるようになったと語る。安藤は本作を最後にジブリを退職したが、『かぐや姫の物語』(2013年)にはメインアニメーターとして、『思い出のマーニー』(2014年)には作画監督および脚本(連名)としてジブリ作品に再び参加している。
※この「安藤と宮崎の緊張関係」の解説は、「千と千尋の神隠し」の解説の一部です。
「安藤と宮崎の緊張関係」を含む「千と千尋の神隠し」の記事については、「千と千尋の神隠し」の概要を参照ください。
- 安藤と宮崎の緊張関係のページへのリンク