大気中にできる霧の研究
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/16 19:17 UTC 版)
「チャールズ・トムソン・リーズ・ウィルソン」の記事における「大気中にできる霧の研究」の解説
1895年にウィルソンはキャベディッシュ研究所のジョゼフ・ジョン・トムソン(1856-1940)の助手となって、人工的に雲を発生させる研究を始めた。1880-1890当時の理論ではJ.エイトケン(1839-1919)らの研究によって空気中には無数の塵が存在していることが発見され、その塵が核となって水蒸気が凝結して霧(小さな水滴)になるが、塵が無いと霧はできないという「塵説」が主流であった。彼らは湿った空気を急激に膨張させて断熱膨張の温度低下で霧を作る実験を行った。一方、1890年ごろからR.v.ヘルムホルツらによって、「水蒸気凝結の原因は気体のイオンだ」という「イオン説」が登場した。ヘルムホルツらは高圧水蒸気噴射では放電が水蒸気の凝結に影響を及ぼすことや、ろ過した空気でも水滴が生じることを発見し、塵以外の原因でも凝結が起こることを示した。 しかしながら1890年当時は「塵説」が優勢であり、塵説をとる人々はイオン説の実験の不備を一つ一つ指摘した。イオン説の人々にはこれらの指摘にうまく答えることができず、塵説とイオン説の対立は未解決であった。 ウィルソンはこうした状況に決着をつけるために実験装置を考案した。それは「外部から入り込んだすべての凝結核(塵)を除去した空気でも霧が生じるか」を確かめる膨張装置だった。ウィルソンは空気を膨張させるガラス容器を水中に沈めて、外から容器の中に塵が入り込まないようにした。これは「ろ過した空気でも微粒子が残るのではないか」という反論への対策であった。水中においた容器内の空気を何度も断熱膨張させることにより霧を発生させ、容器内の塵を水滴とともに下に落として除去していった。この装置によってウィルソンは「湿った空気の同一な試料を何度でも繰り返し膨張させる」ことができるようになった。この装置は空気の膨張比率を自由に変えることもできた。この装置を数回繰り返して膨張させて霧を作れば、空気中に存在していた塵は完全に除去されるし、水に囲まれた空間に外から塵が入り込む可能性もなかった。ウィルソンは完全に清浄な空気を得ることができるようになった。 ウィルソンは実験の結果「何度も霧を作らせてその霧が沈下するのをまって、エイトケンの凝結核が少しも無いような湿った空気の中では、膨張比が過飽和の4倍の臨界値を超えなければどんなに膨張させても水滴はできないが、ひとたびこの臨界膨張比を超えると、水滴が雨のように降る」ことを発見した。これによって塵以外の凝結核が存在することをはっきりと示すことができた。
※この「大気中にできる霧の研究」の解説は、「チャールズ・トムソン・リーズ・ウィルソン」の解説の一部です。
「大気中にできる霧の研究」を含む「チャールズ・トムソン・リーズ・ウィルソン」の記事については、「チャールズ・トムソン・リーズ・ウィルソン」の概要を参照ください。
- 大気中にできる霧の研究のページへのリンク