壁
★1a.壁を通り抜ける。
『壁抜け男』(エイメ) 中年男デュティユルは、壁や塀を通り抜ける能力が自分に備わっていることに気づく。彼は盗賊になり、わざと逮捕され、何度も脱獄する。美しい人妻が閉じこめられている寝室に入りこんで愛し合ったりもする。しかし、壁抜け症状を治療する薬を誤って飲んだため、彼は塀を抜ける途中で身動きできなくなる。
『聊斎志異』巻1-15「労山道士」 男が労山の道士に、壁抜け術の伝授を請う。呪文を習い、塀をめがけて走りこむと、いつのまにか塀を抜けている。男は帰宅して、妻に術を見せようと塀に突進する。しかし壁に激突し、男は額に瘤を作って倒れてしまった。
『一千一秒物語』(稲垣足穂)「散歩前」 ある晩、「自分」は散歩から帰って来て、壁を見ていた。ドン!と後ろから突かれた、と思ったら、壁の外へ出ていた。「自分」は、まだこれから散歩するところだったのに気がついた。
★2.壁に穴を開ける。
『蒙求』9「匡衡鑿壁」 前漢の匡衡は学問好きだったが貧しく、読書のための燈火がなかった。隣家には燈火があったので、匡衡は隣家との境の壁に穴を開け、その光を引いて書物を読んだ。
『S・カルマ氏の犯罪』(安部公房) 朝起きると、「ぼく」は自分の名前を忘れていた。胸の中がからっぽになった感じがして、雑誌に載っている曠野の写真を見ると、「ぼく」は曠野を胸の中に吸い込んでしまう。「ぼく」は部屋の壁をも吸い込み、曠野に壁が生える。壁は成長を始め、「ぼく」の身体いっぱいになり、さらに大きくなる。「ぼく」は変形し人間の姿を失う。見渡す限りの曠野。その中で、壁となった「ぼく」は静かに果てしなく成長して行く。
『オノレ・シュブラックの消滅』(アポリネール) オノレ・シュブラックが人妻と密会中、亭主がピストルを片手に現れた。裸のオノレ・シュブラックは壁に追いつめられ、「消えてしまいたい」と念ずる。すると身体が平べったくのび、色も壁と同じになって、彼は壁と一体化した。亭主はあっけにとられ、妻を射殺して去った〔*その後もオノレ・シュブラックは、何度か壁と一体化して難を逃れるが、最後には亭主がピストルを壁に乱射し、彼を殺す〕。
★4a.行く手をふさぐ壁。
『妖怪談義』(柳田国男)「妖怪名彙(ヌリカベ)」 夜道を歩いていると、行く先が急に壁になり、どこへも行けなくなることがある。それを「塗り壁」と言って、怖れられている。棒で下の方を払うと壁は消えるが、上の方をたたいてもどうにもならないという。
『妖怪談義』(柳田国男)「妖怪名彙(ノブスマ)」 野衾(のぶすま)は、人の前面に壁のように立ち塞がり、上下左右ともに果てがない。腰を下ろして煙草を吸っていると消える。
塗り壁(水木しげる『図説日本妖怪大全』) 第2次大戦中、「ぼく(水木しげる)」は南方のジャングルを1人さまよっていて、「塗り壁」に出会った。押してみたら、コールタールを固めた感じのもので、右へ行っても左へまわっても前進できない。「ぼく」は20~30分ウロウロしていたが、疲れたので腰を下ろして一休みした。その後でもう1度進んでみると、不思議なことに、今度は普通に進むことができた。どうやら、一服したのがよかったらしい。
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