国家戦略の概観
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/16 06:30 UTC 版)
国家指導の立場に立った政治の戦略は、国家戦略・政戦略などと呼ばれる。国家目的と国力に基づいて、国内外の情勢を総合的に判断して策定される総合的な戦略である。これに基づいて軍事戦略・外交戦略などの戦略を規定する。その重要性は部分的な軍事的・経済的な合理性を凌ぐ。国家戦略によりもたらされる致命的な失敗は軍事戦略・外交戦略などの下位の戦略では回復できない。 国家戦略は歴史においてしばしば軍事戦略とその関係が逆転することがあったが、総じて「戦略的な失敗と引き替えの戦術的な勝利は回復できない」[要出典]ことを示している。第一次世界大戦のドイツ軍参謀総長エーリヒ・ルーデンドルフは、国家総力戦の状況に鑑みて「政治は戦争指導のために実施して総力戦に対応すべき」と主張した。このような軍事的な合理性を重視する考え方はヘルムート・ヨハン・ルートヴィヒ・フォン・モルトケなどにも受け入れられたため、当時のドイツの政策決定に大きく関与した。しかし軍事的な合理性を追求した結果、ドイツ軍は中立国であったベルギーを経由するフランスへの攻勢作戦によりイギリスの、また無制限潜水艦作戦によってアメリカ合衆国の参戦を招くという戦略的な失敗を犯した。この代償としてドイツは170万人を超える戦死者、莫大な賠償金、社会的な混乱、そして国家体制の破綻を支払うこととなった。 国家戦略という概念やその実態は非常に包括的で曖昧である。国家戦略を「その国家の地理や基本理念を踏まえた上で軍事・外交・経済・心理などから国際関係の情勢を判断し、歴史的な経験やその中で培われた戦略文化に基づいて組織的に形成・運用されるもの」と位置づけられるが、人間社会の複雑性・曖昧性に鑑みた場合には国家戦略の概念はかなり不確かなものとならざるをえない。ただ「国家とはさまざまな社会システムの有機的な複合体であり、それらシステムの総力を調和的・計画的に運用して生存・発展を維持するためには、総合的な情勢認識、政治的決断とその支持、各分野の長期的な目標や行動方針、すなわち戦略が必要である」とは確実に言える。そして「国家戦略の中核となるのは軍事・経済・文化などあらゆる面に於いて支配的な影響を及ぼす政治における戦略である」と位置づけることができる。
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