原作『灰色の女』
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黒岩涙香版の序文には原書について「The Phantom Tower,by Mrs.Bendison(アメリカ作家)」とあったが、江戸川乱歩ら、多くの涙香ファンや研究者、好事家の探索にもかかわらず、長い間、同題名の原作本は発見されなかった。このため乱歩などは基本的に翻案小説を書く際、一旦大元の原書を読んでいたもののこれは涙香版だけ読んで書いた旨を桃源社版の江戸川乱歩全集あとがきにコメントしている。その後、黒岩涙香研究の第一人者、伊藤秀雄により、原作者はアメリカの女流作家、Mrs Williamson、原題は“A Woman in Grey”であると発表された。2000年、ミステリー作家の小森健太朗がアメリカの古書販売サイトをインターネットで調べて原書を入手。“A Woman in Grey”が『幽霊塔』の原作であることを裏付けた。涙香が原作や原作者を偽った理由は不明だが、文芸評論家の紀田順一郎は、「原題や原作者をそのまま紹介すると、ライバル紙に結末をばらされるかもしれなかったからではないか」としている。真偽は不明だが、実のところ涙香が外国小説を連載する時に発表した紹介はでたらめが多い。例・『白髪鬼』は実話のように紹介している。 多くの涙香ファンや研究者が探索し続けていた原作の存在だったが、1920年(大正9年)には、アメリカ映画『灰色の女』が日本でも公開されており、日本の映画興行会社では、当時既に、「黒岩涙香『幽霊塔』の原作『灰色の女』映画化」として宣伝していた。映画は前篇、後篇。その後、前篇のフイルムを文芸評論家の紀田順一郎が入手したことから、黒岩涙香研究の第一人者、伊藤秀雄がフィルムを実際に見て、ストーリーも登場人物も一致することから、「幽霊塔」の原作が『灰色の女』であることを突き止めた。紀田は、原作が発表された頃の書評を伊藤に紹介している。この経緯は、伊藤によって書かれた一連の涙香に関する研究書に詳しい。伊藤が発表するまで、映画公開についての情報を、涙香研究家の誰も知らなかったのは不思議としか言いようがない。 2008年2月、『灰色の女』の日本語訳本が初めて刊行された(論創社 論創海外ミステリ)。訳者の中島賢二によると、『灰色の女』はウィルキー・コリンズ著『白衣の女』から一部を借用しているという。「原作を読むことで、作者がはっきり『白衣の女』から借りているところのあることに気づきました。主要人物がある墓石を間にして対面する場面、また、主要人物の一人が重い心臓病を患っていることが筋の展開の上で大きな意味を持っているところなどは、コリンズから借りたものであるのは間違いないと思います。」(中島賢二)
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