勝の全力疾走
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/02 10:17 UTC 版)
『人斬り』の中盤に、「人斬り以蔵」という名声に増長する以蔵の暗殺の無智ぶりを疎んだ武市が、近江国石部宿で襲撃計画している大天誅から以蔵を外して、土佐・薩摩・長州の三藩合同の志士の刺客団が石部宿に向けて出発する場面があるが、そのことを知った素っ裸の以蔵が慌てふためき、褌を締めるやいなや半裸のままでまっしぐらに駆けだしていくシーンは大きな見せ所となっている。 京都の町から野山を越えて石部宿までの九里十三丁を以蔵がひたすら駆けるシーンは数分ほど続くが、武市の飼犬である以蔵の悲哀を醸し出すため、五社監督は勝に、「ここはハアハアいいながら、悲しくかけ出してくれ」と要望を出した。 以蔵は非常に動物的な人間で、どこかにやはり「おれはこんなに一所懸命かけ出しながら、いつか捨てられる。いつか、そうなるんだ」ということを感じているんじゃないか、という気がする。だけど、いまはとにかくかけ出している、というやりきれなさ、それが爆発したときに、パチンと人をぶった切る。そういうものをぼくは、あの人に塗り込めたかったわけです。 — 五社英雄(長部日出雄との対談)「映画は誰のためになぜ作られるのか」 撮影はトラックにカメラを乗せて、走る勝のすぐ後ろを追っていくというアングルで、観客と以蔵の目線を重ね臨場感を出すというものであった。この全力疾走の撮影日の前夜、勝は深酒をし二日酔い状態で歩くのさえも難儀であった。しかし五社監督は容赦せず、勝は途中で休憩も入れられないまま必死に走り抜けた。もしも勝がつまずき転んでしまったら大惨事にもなりかねない撮影であった。 途中でやすんでいいっていうんだけど、カットがかからない、とにかく走ってなくちゃならない、どこまで走りゃいいんだ……(笑い)。歩くのもだめなのに(撮影のトラックが後ろから走ってくるので)走らなけりゃひかれちゃうんだから。 — 勝新太郎「武士道とは生きることと見たり」
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