分裂促進因子に対する非依存性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/22 04:18 UTC 版)
「分裂促進因子」の記事における「分裂促進因子に対する非依存性」の解説
がん細胞は、細胞周期を継続するために内在性または外因性の分裂促進因子を必要とせず、分裂促進因子がなくとも成長、生存、複製を行うことができる。がん細胞はさまざまな経路で外来性の分裂促進因子に対する依存性を喪失している。 まず、がん細胞は自身の分裂を促進する因子を産生することができ、これはautocrine stimulation(自己分泌刺激)と呼ばれる。その結果、腫瘍細胞が自身の分裂促進因子を産生し、それによってより多くの腫瘍細胞の複製が起こり、その結果さらに多くの分裂促進因子が産生される、という致命的なポジティブフィードバックループが形成される。最初期に同定されたがん遺伝子の1つであるサル肉腫ウイルス(simian sarcoma virus)のp28sisを例に挙げると、このウイルスは宿主の腫瘍形成を引き起こし、p28sisはヒトのPDGFとほぼ同一のアミノ酸配列である。そのため、サル肉腫ウイルスによって形成された腫瘍は細胞の成長を制御するPDGFの変動に依存しなくなり、自身の分裂促進因子をp28sisの形で産生することができるようになる。十分なp28sisの活性がある限り細胞は無制限に増殖し、がんとなる。 次に、がん細胞は分裂促進因子に対する細胞表面受容体に変異が生じている。分裂促進因子受容体に存在するキナーゼドメインはがん細胞でしばしば過剰に活性化しており、外来性の分裂促進因子が存在しない場合でも活性化されたままとなっている。さらに、一部のがんは細胞表面の分裂促進因子受容体の過剰産生と関係している。こうした変異によって、細胞は非常に低レベルの分裂促進因子によっても分裂が刺激される。そうした例の1つが、EGFに応答する受容体型チロシンキナーゼのHER2である。HER2の過剰発現は乳がんの15–30%でみられ、極端に低い濃度のEGFでも細胞周期を進行させることができるようになる。これらの細胞でのキナーゼ活性の過剰発現は増殖を助ける。こうしたがんはホルモン依存性乳がんとして知られており、キナーゼの活性化は成長因子に対する曝露とエストラジオールに対する曝露のどちらとも関係している。 3番目に、がん細胞では分裂促進因子シグナル伝達の下流のエフェクターがしばしば変異している。ヒトにおける重要な分裂促進因子シグナルの伝達経路は、Ras-Raf-MAPK経路である。分裂促進因子シグナルは通常GTPアーゼであるRasを活性化し、その後RasがMAPKの残りの部分の活性化を行い、最終的には細胞周期の進行を促進するタンパク質の発現が行われる。すべてではないにしろ、大部分のがんでRas-Raf-MAPK経路にいくつかの変異が生じていると考えられており、最も一般的なのはRasの変異である。これらの変異は、分裂促進因子の存在に関係なく、経路を恒常的に活性化する。
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