候補遺伝子SLC1A1
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/12 10:56 UTC 版)
「強迫性障害の原因」の記事における「候補遺伝子SLC1A1」の解説
多数の遺伝子がOCDの進行に重要である可能性がある。これらの候補遺伝子の一部は同定されているが、グルタミン酸トランスポーターのEAAC1をコードする、グルタミン酸トランスポーター遺伝子SLC1A1(溶質キャリアファミリー1、メンバー1)に関連するものを除いて、候補遺伝子研究のどれも一貫して再現されていない。候補遺伝子の同定の難しさは、大半の遺伝子研究が環境要因を無視しているという事実に関連している可能性がある。結果的に、さらなる遺伝子研究を行うためには、OCDの特定のサブタイプの遺伝子と環境要因間の相互作用モデルを開発する必要がある可能性がある。OCDの3つのゲノムワイド関連解析も完了しており、SLC1A1を内包する領域9p24を含む潜在的な関心領域が示唆されている。SLC1A1は皮質、線条体、視床(皮質-線条体-視床皮質回路、CSTC)内で発現しグルタミン酸神経伝達と関連している。ニューロイメージング、候補遺伝子及び動物モデル研究によりSLC1A1とグルタミン酸シグナリングを、OCDの発生に関連付けるエビデンスが提供されている。ニューロイメージング研究では早期発症型のOCD患者は、対称群と比較して尾状グルタミン酸濃度は前帯状皮質で低く尾状で高いことがわかっており、グルタミン酸トランスポーター(同様にグルタミン酸トランスポーター遺伝子SLC1A1)が、OCDの発症に関連していることを示唆している。 遺伝子SLC1A1内の一塩基多型 (SNPs)は一貫してOCDに関連することがわかっている。グルタミン酸トランスポーターに加えて、SLC1A1によってコード化されたトランスポーターEAAC1もまたOCDに対する感受性を促進し得るGABAの合成に関係している。初期の研究ではOCDとSLC1A1遺伝子の3つの連鎖遺伝子多型に有意な関連があることを示した。この結果は多くの研究で再現されている。ある研究では漢民族集団の早期発症型OCD患者のSLC1A1遺伝子内の4つのSNPsをテストし、SNPsのうちの1つであるrs10491734が、対称群よりもOCD患者において有意に頻度が高いことが判明した。異なる研究で同定された正確なSNPsは異なっているものの、これは異なる民族集団で行われたことが原因の可能性もある。例えば、家族ベースの関連研究ではアメリカ合衆国の家族におけるSLC1A1内及びその周辺のSNPsの事例を分析し、異なるSNPのrs4740788と3-SNPハプロタイプrs4740788-rs10491734-rs10491733は、両方ともOCDに関連するものであることがわかった。 強迫性障害の研究用にいくつかのマウスのモデルが開発されている。モデル生物はある種(この場合、ヒト)の一部の精神障害の特徴を他の種(この場合、マウス)で調査できるようにするために有用である。特に、SLC1A1ヌルマウスは攻撃性の増大と毛皮の喪失につながる過度の自己グルーミング(毛づくろい)を示すことで強迫行動を示した。しかしながら、これらはOCDと大まかに関連する2つの行動に過ぎないため、EAAC1の欠如とOCDのような行動間の関係性の強い証拠を提供するものではなかった。SLC1A1遺伝子とOCD間の強い相関を考慮するとEAAC1の欠如は、視床の皮質-線条体-視床皮質回路(CSTC)の関連遺伝子の他の稀な突然変異と組み合わさった時に、OCDのような行動をもたらすだけであることを示唆している。
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