保存量とは? わかりやすく解説

運動の積分

(保存量 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/23 09:07 UTC 版)

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運動の積分 (うんどうのせきぶん, integral of motion) とは、古典力学において、系の時間発展に際して時間変化しない物理量のこと。保存量 (conserved quantity) や恒量[1]、運動の定数 (constant of motion)、第一積分[2] (first integral) あるいは単に積分とも呼ばれる[3]。一般に力学の問題が与えられたとき、系の自由度の数に等しい数の第一積分を見出すことができれば、その問題を「解く(求積する)」ことができる(リウヴィルの定理)ため、その存在あるいは具体的な表示を調べることは力学(特に可積分系)の研究において基本的である。

概要

次元空間 における常微分方程式

について考える。この方程式の第一積分とは、 上の関数 であり、方程式の解軌道 に沿って一定値を取るようなもののことを言う[4]

常微分方程式系のひとつの第一積分 が見出されたならば、それを初期値 ( とおく) と等値した方程式

をひとつの変数 (例えば ) について解くことにより、 を他の変数を用いて表示することができる。このとき、もとの方程式系は

という 変数に関する常微分方程式へと帰着される。それ故に、 個の第一積分が見出されたならば、もとの常微分方程式の一般解 を構成することができる(求積できる)[5]

リウヴィルの定理

古典力学で扱われるクラスの問題はハミルトン形式の定式化が可能である。これは、系の自由度を とすると、系の状態を一般化座標 () および一般化運動量 () の組 によって(つまり位相空間の点として)記述するものであり、運動方程式は、ハミルトニアン を用いたハミルトンの正準方程式

である。このとき、任意の(時刻 に陽に依存しない)物理量 の解軌道に沿う時間変化は、ポアソン括弧 を用いて

と書けるため、それが運動の積分であることはハミルトニアンとポアソン可換であること という条件と等価である[6]

ハミルトン力学系では、運動方程式の解を求積するために 個の第一積分を求める必要はなく、 個の互いにポアソン可換な第一積分が与えられれば求積可能である[7]。この事実はジョゼフ・リウヴィルによって証明された[8]ためリウヴィルの定理と呼ばれていたが、後にウラジーミル・アーノルドによって幾何学的な観点から再定式化され[9]リウヴィル=アーノルドの定理として知られるようになった[10]

ネーターの定理

ラグランジュ形式またはハミルトン形式の物理系に関して、ネーターの定理は系のひとつの連続的な対称性に付随してひとつの第一積分が存在することを主張する[11]。例えば時間並進対称性に付随してハミルトニアン(エネルギー)が、空間並進対称性に付随して運動量が、空間回転対称性に付随して角運動量が第一積分となる。

孤立積分と無限多価の積分

ある種の第一積分 は、その「等高線」 が考えている領域を稠密に埋め尽くすことがある[12]。この場合、その積分の値が指定されても、運動可能な領域の次元を引き下げることができないため、このような積分はリウヴィルの定理における可積分性の条件からは除外される[13][14]。このような状況では状態空間内の任意の点の近傍を任意の等高線 が通過するため、この意味でこの種の第一積分は無限多価の積分と呼ばれる[15]。一方、そうではない有限多価の積分(典型的には一価の積分)は孤立積分 (isolating integral) と呼ばれ、求積に用いることができる[13]

脚注

  1. ^ 仕事とエネルギー”. 2020年9月2日閲覧。
  2. ^ *柴山, 允瑠『重点解説ハミルトン力学系 : 可積分系とKAM理論を中心に』サイエンス社、2016年、64頁。
  3. ^ 大貫&吉田, p. 32.
  4. ^ 大貫&吉田, pp. 91-92.
  5. ^ 大貫&吉田, pp. 92-93.
  6. ^ 大貫&吉田, pp. 58-59.
  7. ^ 大貫&吉田, pp. 100-1102.
  8. ^ Liouville, J. (1853). “Note sur l'intégration des équations différentielles de la Dynamique”. Journal de Mathématiques Pures et Appliquées 20: 137-138. http://sites.mathdoc.fr/JMPA/PDF/JMPA_1855_1_20_A11_0.pdf. 
  9. ^ Arnold, V. I. (1963). “Small Denominators and Problems of Stability of Motion in Classical and Celestial Mechanics”. Russian Math. Surveys 18: 85-191. doi:10.1070/RM1963v018n06ABEH001143. 
  10. ^ 大貫&吉田, pp. 100-107.
  11. ^ 大貫&吉田, pp. 30-42, 78-85.
  12. ^ 大貫&吉田, p. 151.
  13. ^ a b 大貫&吉田, pp.151-152.
  14. ^ Binney & Tremaine, pp. 159-160.
  15. ^ 大貫&吉田, p. 152.

参考文献

  • 大貫, 義郎、吉田, 春夫『岩波講座 現代の物理学〈1〉力学』岩波書店、1997年、第2刷。ISBN 4-00-010431-4
  • Binney, James; Tremaine, Scott (2008). Galactic Dynamics (Second edition ed.). Princeton University Press. ISBN 978-0-691-13027-9 

関連項目


保存量

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/12 17:08 UTC 版)

ロトカ・ヴォルテラの方程式」の記事における「保存量」の解説

ロトカ・ヴォルテラの方程式力学系における保存系該当し、保存量と呼ばれる量を持つ。式から微分 dx/dy を求めると、 d x d y = d x / d t d y / d t = a x − b x y c x yd y {\displaystyle {\frac {dx}{dy}}={\frac {{dx}/{dt}}{{dy}/{dt}}}={\frac {ax-bxy}{cxy-dy}}} となる。この変数分離形は c xd x d x = a − b y y d y {\displaystyle {\frac {cx-d}{x}}dx={\frac {a-by}{y}}dy} となり、両辺積分して H = c x + b y − d log ⁡ x − a log ⁡ y {\displaystyle H=cx+by-d\log x-a\log y} が得られる。ここで、log自然対数である。右辺の H は一定の値を取る定数である。この式の意味は、時間経過に従って x と y が色々な値に変化しても、上式で与えられる H の値は常に同じに保たれるということである。このような量は保存量や積分不変量呼ばれ、保存量を持つ系は保存系呼ばれる実際に H を t で微分すると、dH/dt = 0 となり、H が定数であることが確認できる平衡点 (d/c, a/b) で H は最小値取り、その値は H m i n = a + d − a log ⁡ ( a b ) − d log ⁡ ( d c ) {\displaystyle H_{min}=a+d-a\log \left({\frac {a}{b}}\right)-d\log \left({\frac {d}{c}}\right)} となる。H − Hmin はこの系におけるリアプノフ関数でもある。

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「保存量」を含む「ロトカ・ヴォルテラの方程式」の記事については、「ロトカ・ヴォルテラの方程式」の概要を参照ください。

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