伎楽の上演様態
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/20 05:56 UTC 版)
奈良時代に仏教寺院で行われていた伎楽は、次のような上演様態をもつ。 まず行道とよばれる一種のパレードが行われる。これは読経をともない仏を賛美するものと考えられる。このパレードは「治道(ちどう)」とよばれる鼻の高い天狗のような仮面をつけた者が先導する。次に笛、鼓などの楽器で構成される前奏の楽隊、音声という声楽のパート、さらに獅子、踊物、そして後奏の楽隊、帽冠(ほうこ)とよばれる僧がつきしたがう。 一行が、しつらえられた演技の場に到着すると、獅子舞がはじまる。これは演技の場を踏み鎮める役割をはたす。次に呉王、金剛、迦楼羅(かるら)、呉女、崑崙(くろん)、力士、波羅門(ばらもん)、大孤(たいこ)、酔胡(すいこ)という登場人物によって劇的展開をもつ演技がはじまる。この演技はすべて仮面をつけておこなわれ、無言のパントマイムと舞で構成される。また管楽器や打楽器による伴奏がつく。 呉王、金剛による登場の舞に続いて、霊鳥である迦楼羅が蛇を食べるテンポの速い舞、崑崙が呉女に卑猥な動作で言い寄り力士にこらしめられる演技、波羅門が褌をぬいで洗う所作、大孤という老人が仏に礼拝する演技、酔胡(酒に酔った胡の王)とその従者(酔胡従)による滑稽な演技がおこなわれた。 崑崙はマラカタとよばれる男性器を誇張したつくりものを扇でたたいて呉女に言い寄り、力士はそのマラカタに縄をかけて引っ張ったり、たたいたりする。色欲を戒める意味をもたせて上演されたが、その所作は見物の爆笑をさそったと想像される。また酔胡の演技も酒に酔って権威をなくしてしまった王を描いており、おおらかな批判精神がみられる。しかしながら大孤の礼拝の所作は、仏教に対する敬虔さを表現しており、伎楽が喜劇的な要素をもちながら、寺院楽として用いられた理由がここにあるという説もある。
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