不凍性メカニズム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/03/11 01:31 UTC 版)
生物組織を普通に凍結させると、組織が破壊され、高次機能が失われる。これは生体内の水が凍結する際に粗大な結晶となり、組織の構造を破壊されることによる。また凍結時は低温であるため組織の柔軟性が下がっていることも、これに拍車をかける。さらに凍結後に生体組織を構成していた溶液が濃縮され、組織に浸透圧による化学的ストレスと傷害を与えることも加わる。 人為的に低温での凍結を抑制する場合、ポリエチレングリコールや糖類の添加や置換、浸透圧の向上といった手法を用いることができる。しかしながら、生体では代謝の問題上、そうした手段をとることができない。 不凍タンパク質類は微小な氷結晶に結合し、結晶性の熱的安定性を下げることによってその結晶性を制御する。また、水に対して熱的ヒステリシスを与え、凝固点を下げる一方で融解点を下げない(通常0.2~0.3℃、昆虫においては5℃程度下げるものもあるとされる)。 結晶性が制御される結果として、形成される氷は円錐ないし六角錐を底面で2個張り合わせたような形(紡錘形に近い)となる。また微細な結晶が多数析出する現象が起き、通常の凍結でみられる、結晶同士が連結して粗大な結晶を析出させる現象が起きない。 この熱的ヒステリシスについては、精密微小浸透圧計を用いて計測することが可能であり、典型的な魚の不凍タンパク質の場合であれば、1.5℃のときの最大を示すのだという。しかしながら、昆虫の不凍タンパク質は、この10~30倍活性が高いといわれる。これは、魚が水中という比較的温度が安定した環境に生息するのに対して、昆虫は地上で生活する必要があり、さらされる温度変化が激しいため、このような性質を身に着けたのではないかとする分析がある。なお、ハマキガには非常に高い耐寒性をもつものがおり、−30℃ですら活発に活動するという。
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