一望の冬田や出費つつしめり
作 者 |
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季 語 |
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季 節 |
冬 |
出 典 |
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前 書 |
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評 言 |
日が当っていても冬田の景は寒々しい。夫が亡くなり、見渡す限りの冬田を眺めていると殊更寒さが身にしみ、ついついこれからの暮しに思いが馳せてしまう。 この作品を読み思い出すのは、癌で亡くなった父が、ある日病床で「自分が生きている間は親戚や知人も親切にして呉れるが、死ねば手の裏を返したように他人になる」と言ったことである。事実、葬儀が済むとその言葉通り、社会人一年生にとって初めて世間の厳しさを味わった。その遠い体験をまざまざと思い出した。同じように、格差の問題が社会的な問題となっている今日、年金生活者や所得に恵まれない人々にとっても肯ける作品ではなかろうか。 最近のマスコミの報道は、庶民とかけ離れた金銭感覚の社保庁の年金問題や国会議員の事務所経費問題、また、消費期限切れの原材料使用の不二家やミートホープの偽牛ミンチ事件、「赤福」の赤福餅の偽装など不適正表示や法令遵守に欠けた行動、前防衛事務次官の業者癒着、その他枚挙の暇がない。これこそ正に一望冬田の景である。 この寒い現実に対する庶民感情を福地記代の「絆橋」中の作品を借用するならば、『役人の日本を壊す五月雨るる』『政治家のうすら笑ひやうそ寒し』ということになるのだろう。 福知記代は山本有三と同じ栃木県出身で当年81歳。俳句の出発点は石田波郷の「鶴」入会という、その後、野澤節子の「蘭」入会、平成5年「蘭」同人となる。平成8年第一句集「水の私語」が朝日新聞「折々のうた」に掲載される。平成8年「港」入会、平成11年「港」暁光集同人。 |
評 者 |
野舘真佐志 |
備 考 |
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