ホロコーストのパレスチナ人煽動論
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「ホロコースト」の記事における「ホロコーストのパレスチナ人煽動論」の解説
イスラエルなどでは、「ホロコーストはパレスチナ指導者のアミーン・フサイニーがヒトラーを唆した」あるいは「フサイニーはヒトラーの共犯者」という主張が行われている。 イスラエルのネタニヤフ首相は、2012年にクネセト(国会)で、ヒトラーはユダヤ人の追放を望んでいただけであり、パレスチナ指導者のアミーン・フサイニーに虐殺を唆されたと主張した。ネタニヤフは同様の主張をその後も続けた。 ネタニヤフはさらに2015年10月20日、世界シオニスト機構(英語版)で次のように述べた。「ヒトラーはユダヤ人を一度に絶滅させるつもりは無かった。ユダヤ人の追放を望んでいただけでした。しかし、大ムフティーであるアミーン・フサイニーはヒトラーに言った、『あなたがかれらを追放した場合、また(復讐しに)来るでしょう』、ヒトラー『私達はどうすべきか』『焼き尽くせ』。これはアミール・フサイニーが言った物です」。 フサイニーがヒトラーと会談したことは事実である。しかし、フサイニーとヒトラーの会談は1941年11月であり、同年9月にはヒトラー政権によって、キエフ郊外のバビ・ヤールで3万人を超すユダヤ人の虐殺が行われていた(バビ・ヤールの虐殺)。「ヒトラーはユダヤ人の追放を望んでいただけ」とするネタニヤフの主張の根拠は不明である。『ハアレツ』のChemi Shalev記者は、「これがもしネタニヤフでなければ、サイモン・ウィーゼンタール・センター、ADL(名誉毀損防止同盟)、ヤド・ヴァシェムらはすでにホロコースト否定論だと叫んでいただろう」とネタニヤフを批判した。また『ハアレツ』はヴォルフガング・G・シュヴァニッツとバリー・ルビンの"Nazis, Islamists, and the Making of the Modern Middle East"を引き、ネタニヤフが主張するようなヒトラーとフサイニーのやりとりはそもそも無く、ヒトラーがユダヤ人絶滅を決意したのは会談前と指摘した。しかし一方で、アメリカのシンクタンク「中東フォーラム(英語版)」によると、同フォーラム所属のシュヴァニッツは、「アル・フサイニーがアドルフ・ヒトラーとホロコーストの中で重要な役割を果たした共闘者であり、共犯者であったことは歴史的事実である」と主張した。ただし、ネタニヤフが主張したような二人のやりとりはなかったという。また、ヤド・ヴァシェムの主任歴史家ディナ・ポラトは、フサイニーがヒトラーに「中東での最終的解決」を望んだことは間違いでは無いとした。しかし、ヒトラーがフサイニーに唆されて初めてユダヤ人虐殺を決意したという主張は「すべての点で完全に間違っている」「ヒトラーは最終的解決を促すために、誰も必要としなかった」と指摘した。 ネタニヤフの一連の発言に対し、相次いで批判が行われた。パレスチナ解放機構のサエブ・アリカット(英語版)事務総長は、「イスラエル政府の指導者が、隣人をあまりに憎むあまり、ユダヤ人600万人を殺した史上最大の極悪人さえ免罪してもかまわないという。歴史の上で悲しい日だ」と声明を発表した。国際連合のファルハン・ハク報道官は10月21日の記者会見で「ホロコーストがナチス以外のパレスチナ人やイスラム教徒に触発されたものだという主張は全く論外だ」と述べた。同日、ドイツのアンゲラ・メルケル首相はネタニヤフとの共同記者会見で、「この問題について歴史認識を変える必要性を感じていない。われわれはドイツとして『ショーア(ショアー)』に対する自分たちの責任を受け入れている」と事実上ネタニヤフ発言を否定し、ネタニヤフも「ホロコーストはヒットラーの責任だったと誰も否定してはならない」と述べた。
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