ブリュンヒルドの殺意の理由と、他の作品への影響
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/05/16 00:47 UTC 版)
「シグルズルの歌断片」の記事における「ブリュンヒルドの殺意の理由と、他の作品への影響」の解説
ブリュンヒルドがなぜシグルズ殺しを使嗾したのか。この歌をふくめて各種の伝承を比較すると、これらの成立過程を推定する助けになる。 この歌では「あの人(ブリュンヒルド)はグズルーンに自分よりしあわせな結婚をさせたくないのです。」とヘグニが語る。動機は単純な嫉妬としかわからない。 「シグルズルの短詩」では、ブリュンヒルドが「若武者シグルズをこの腕に抱きたい。それができなければ、いっそ死んでしまいたい。」と言い、シグルズへの愛と、彼が他人の夫である事への嫉妬が明瞭に書かれている。また「黄金に身を装い、グラニにまたがった方と婚約したのです。あの方は眼も姿も、あなた方とは違っていました。」とグンナルに言う。夫のすりかえが起こったことを示唆する。 「ブリュンヒルドルの冥府騎行」でも、「グズルーンは、わたしがシグルズに抱かれて寝たと非難した。そのとき、はからずも、わたしは、婿選びで欺かれたことを知ったのだ。」とブリュンヒルドが言う。何らかの夫のすりかえがあったことを暗示する。 「グリーピルの予言」では、「そなた(シグルズ)は弁舌と分別はそのまま残しながら、グンナルと姿、身振りをすりかえるのだ。そしてヘイミルの恐れを知らぬ養女と婚約をする。先がどうなるかも知らずに。」と、明瞭にシグルズとグンナルのすりかえが語られる。ただしその理由が不明。(以上の台詞はすべて谷口幸男訳) 「スノッリのエッダ」では、すりかえとは、ブリュンヒルドの周りの炎をシグルズがグンナルの代わりに超えることだった。しかしこの書からだけでは、このすりかえが殺意になる理由が不明。だまされた事への単純な怒りともとれる。 「ヴォルスンガ・サガ」では、ブリュンヒルドの心理がもっとも詳細に描かれる。ブリュンヒルドがすりかわりの秘密を知ったあと、グンナルやシグルズとの対話を通して、彼女はシグルズを愛しており、そのシグルズにだまされたこと、シグルズが自分を妻にしてくれなかった事への嫉妬が、殺人の動機として明瞭に語られる。 「シズレクのサガ」では、炎を超えた者との結婚の誓いという話はない。ブリュンヒルドはシグルズを愛していたが、あきらめてグンナルと結婚した。ただしその初夜の相手はすりかわったシグルズだった。それ自体は殺意に結びつかない。しかしそのことをクリームヒルトが知っていた。つまりシグルズの口の軽さが許せなかったと読める。 「ニーベルンゲンの歌」も、シズレクのサガと同様、すりかわりとは初夜のできごとだった。そのことをクリームヒルトが知っていて、公衆の前でばらしてしまった。ブリュンヒルド自身の殺意というより、「王家に対する侮辱」として、臣下のハゲネが自分の意思でジークフリートを殺す。
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