ナノフレア加熱説
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/02 05:34 UTC 版)
フレアのエネルギー規模(1032 エルグ (erg) 程度)に比べて6桁ほど小さい1026 erg程度の爆発は「マイクロフレア」、さらに1023 erg程度の爆発は「ナノフレア」とそれぞれ呼ばれている。これらの、フレアよりもエネルギー規模の小さい爆発が解放するエネルギーの重ね合わせでコロナ加熱を説明しようとするのがナノフレア加熱という仮説である。 ナノフレア加熱説の問題点は、「ようこう」の軟X線望遠鏡やTRACE、SOHOのEITなどの極端紫外線望遠鏡では、個々のマイクロフレアを小さな輝点として観測できるが、コロナに放出されるエネルギーを説明するには、これらの微小イベントの数が少なすぎる。「ようこう」での観測から得られたフレアのエネルギー規模と発生頻度の傾向がナノフレアのエネルギー規模でも同様に続くようであれば、ナノフレアはコロナ加熱の主要項とは成り得ないことが明らかとなっている。そのため、フレアやマイクロフレアの発生機構とは異なる物理的機構が必要となる。 ナノフレアがコロナ加熱の要因となっているというアイデアは、1970年代にユージン・ニューマン・パーカーによって提唱されたが、現在でも論争の的となっている。パーカーは、太陽表面近くの対流によって光球からコロナへつながる磁力線の足元が捻じれたり曲げられたりした結果、コロナにおいて磁力線が乱れて絡まった状態となり、その過程で磁場に蓄えられたエネルギーが磁気リコネクションによって熱エネルギーとして磁場から解放されてコロナが加熱されるとした。 実際、太陽の表面には、50〜1000 kmの範囲に数百万個の正極と負極の磁場が、英語で salt and pepper field と表現されるように、ごま塩や塩胡椒を振り撒いたように分布している。これらの小さな磁極が、数分という短い時間の中で変化している様子が「ひので」などの連続観測から明らかとなっている。この磁場の変化によって、コロナの下層で小さな電流層が多数生まれ、磁気リコネクションが頻繁に発生していると予想されている。
※この「ナノフレア加熱説」の解説は、「コロナ」の解説の一部です。
「ナノフレア加熱説」を含む「コロナ」の記事については、「コロナ」の概要を参照ください。
- ナノフレア加熱説のページへのリンク